第2話
「そんなぁ、困るじゃないですか〜?!ちゃんとに予約したんだからー!!」 私は腹立たしいし、何とかしてもらいたい 一心でそうした事を何度も言った。 「申し訳ございません。」 何度も謝るフロントの二人の男達。 「もう今からじゃあどこにも泊まれないじゃないですかぁ?!もう何処もいっぱいな筈だから。そうでしょう?!」 「…。」 「ねー、私、ちゃんとに電話してるんですよー?!」 「はい、本当に申し訳ございません。」 「じゃあもう絶対に部屋、無いんですか?!」 「はい、ございません。大変申し訳ございません。」 二人はそうして謝っていた。 「本当に、本当ですかぁ?」 私は、自分もホテルに働いていたから、うちのホテルの従業員に聞いた事があったのだ。それは私の同僚の、さっき話した太った中年男だ。仮に名前を、宮川さんとしよう。 宮川さんが私に、どんなホテルでも普通は必ず、一部屋は取ってある、つまり空けてあると言っていたのだ。何かの時の為に,予備にと。 私は自分もホテルに働いていると教えれば 良かったのだ。だが馬鹿で機転の利かない私はそんな事は考えず、言わなかった。 もしかしたら、何処か聞かれるとでも思い、名前を知らせたくなかったのかもしれない。何しろ、いつもチェックインする時には偽名を使っていたのだから。確かいつも殆ど同じ名前に決めていて、それは"森田エリカ"だったと思う。 何故そんな事をしていたのか?遊び疲れて ホテルへ泊まり、そこから出勤するのに何か罪悪感が少しあった気がする。 だがもう一つの理由は、自分の本名を教えるのがはばかられたのだ。恐いと思っていたのだ。 何故なら私はハーフで、見た目は白人の血が強い。黙っていれば普通に英語を話しかけられても何も不思議ではなく、それは誰が見ても極自然に受け取られる行為だったからだ。なので目立つ私の顔で、本名が分かれば、 幾ら東京でも狭い世界で、いつ何が起きてもおかしくないと思っていたのだ。 現にいきなり若い男に話しかけられたり(日本語の時もあるが、変な片言の英語で)、 腕を掴まれたりして、外国人の売春婦と間違われたりした事が何度かあったからだ。 (そんな時、服装は普通で、そんな派手な格好はしていなかったが。) それでとにかく私は、只空いている部屋は本当に無いのかとしつこく何度か聞いた。 するといきなり片方の男の顔がパッと明るくなった。 「アッ?!あります!!ございます。」 「本当ですか?!」 そうら、来た!やっぱりあるんじゃん!! 内心そう思って私の心は踊った。ちゃんとにしつこく食い下がるべきだよね。そんな風に思いながら。 「はい、一部屋だけございました。」 さっきの男が嬉しそうに返事をした。 すると横にいたもう一人が驚きながら大声を出した。 「おい?!お前、あそこは!!」 だが私にあると言ったほうは無視して返事をしない。相手の顔も見ない。 何だろう?やはり予備に取っておきたいから、私みたいにまだ若い、一人で来た女なんかに貸したくないのかな?そんな風に思って焦った。だがもう片方の男の態度も不思議に思った。 だから私はこう聞いた。 「あの、それって普通の部屋ですよね?」「はい、勿論です。」 ニコニコしながら最初の男が返答する。横の男は苦虫をかみ潰した様な、嫌な顔をして黙っている。 「じゃあ、そこお願いします!」 「よろしいですか?」 「はい。」 私はそうしてその部屋の鍵を受け取った。 そして安堵しながらエレベーターに乗り込んだ。そしてその階で降りた。(何階だったかは覚えていない。だが、確かかなり上の階だった。) そうして私はその部屋のドアを開けた。
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