第4話 最後の戦いとすれ違い

 一ヶ月後のリナーシタ作戦当日の早朝、駐屯地には最新鋭の兵器達が勢揃いだった。超電磁砲戦車や可変翼ステルス戦闘機、軽く100トン以上の爆弾が積み込める爆撃機もあった。


「作戦は聞いているな。」

「はイ、問題あリマせん。」

「まぁ、私達の出番がないことを祈るしかないな。」

「……ハい。」


 シナミ達の任務は首都防衛。作戦で取り逃したアグレッサーの殲滅が主な任務だ。


 爆撃機が各地の壊滅した都市に巣食うアグレッサーを排除、後衛の戦闘機が残りを殲滅。それでも生き残り、人口の多い首都に向かって来たアグレッサーをシナミ達首都防衛隊が排除するというのが今回の作戦だ。


 全ての物資を使い切ってしまうので、この作戦で日本の命運が決まる。兵士の士気はイヤでも高まるだろう。


 作戦開始前、現場はどこもピリピリした空気で包まれていた。最後の作戦確認をする者、仲間と緊張をほぐし合う者、家族に最後の電話をかける者。流石にいつものようにふざけあう者はいなかった。


「お前は私達、首都防衛隊と一緒の配置についてもらう。万が一のために、守りを固める為だろう。」

「私ハもっト前戦に出たホうがよかったノでは?」

「仕方ないだろう、お上からの命令だ。逆らえないよ。私の案だって却下されたしな。馬鹿馬鹿しいって。」

「シナミの案トハ?」

「それは…。」


 基地内に響き渡ったブザー音で全ての音が上書きされた。作戦開始時刻になったようだ。軍靴の音で辺りが埋め尽くされ、その音はすぐにエンジンの轟音でかき消される。


「…話している時間はなさそうだな。お前はここで待機しておけ。私はアドバンサーの発進準備をしてくる。」

「分かりマしタ。ご無事デ。」


 シナミは人型の黒い物体の方へ駆け足で向かう。人の波に呑まれシナミの姿が消える。その時、アヴニールは何かを決心したように上を向いた。


『私は、世界の唯一の希望…。』


 人間には聞き取れない言語で呟くアヴニール。


『無駄な抵抗なのは分かっている。でも、少しでも可能性のある方へ。』


 重い体を立たせて地面を踏み込み、力強く大地を蹴った。アヴニールの管理場所だった格納庫は衝撃で消し飛び、遅れて爆発したような音が鳴り響く。兵士達が目を開けると、そこにはアヴニールの姿はどこにもなく、残骸が残るだけだった。



「アヴニール…。何を考えている。」


 アヴニールが格納庫を破壊して飛び出して行く姿をシナミはしかと見た。初速から音速を超える速さを出す。やはりあいつはバケモノだ。


 けれど、単純な理由で勝手な行動をするやつではない。それ相応の理由があるはずだ。それにあいつが向かったのは、敵が多いと判明している東北方面。おそらく私達の負担を減らそうとしているのだろう。


 それ以上考えるのは後にしよう。今は目の前の困難に立ち向かう時だ。


 シナミは自分の中で結論を導き出し、裏切りでないことを望み、再び足を動かし始めた。



 駆け足で向かった場所には黒い巨大な人型の物体が跪いていた。黒いボディに青いラインの入った機体。

肩には白い文字でアドバンサーA-01と書かれていた。


 アドバンサーのコックピットに座るシナミ。パチパチと慣れた手つきで決められた順番でスイッチを入れていき、どんどんコンソールパネルに光が灯る。


「システムオールグリーン。起動シークエンス完了。アドバンサーA-01、出るぞ。」

 アドバンサーの目に当たる部分が不気味な青色に光る。機体が鈍い音を立てながらも、直立姿勢をとる。そばに置かれていたレールガンライフルと、積層構造シールドを手に持たせ、指示を待つ。すると、オペレーターから通信が入った。


「A中隊は隊の準備が完了次第、持ち場についてください。B、C中隊は戦車隊の護衛任務がありますので、戦車隊の準備が完了次第出撃して下さい。次にD中隊は…。」


 シナミは自分の隊の連中を見る。一応出撃準備は整ったようだった。


「A中隊、出撃する。遅れるなよ、最後の戦いだ。これを終わらせて家族のもとに帰ろう。」


 激励にとシナミは一発だけ空に向かって銃を撃つ。放たれた弾丸は閃光を発するものだった。花火のように強い光を発した弾丸は、登りかけの太陽が霞むほど眩しく、温かいものだった。A中隊は周りにいた兵士の声援に包まれた。兵士の士気は最高潮に高まり、アドバンサー部隊の周りはライブ会場の様な熱気に包まれる。


 A中隊はゆっくりと歩き出し、朝日の方角にある作戦位置に向かう。どれだけ遠ざかっても、声援が止むことはなかった。


「この朝日も最後かもしれないな。」


 何も変わらない、いつもの朝。今日は少し美しく見えた。

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