悪魔のレポーター

 ドアをノックすると、ふにゃけた声。

「エディぃ。待ってたよふぉ。はひゃく入れよぉ」

 ドアを開けると、マリファナ大パーティ。おれは、驚きながらも、とっさにカメラを構える。

「き、きしゃま、芸能レポーター。な、なんでここが……」

 あれ?おやおや。おれは、どうやら訪問日を一日間違えた上、マンションのこのタレントの部屋の、一階下に来てしまったらしいぞ。

 偽名で取っている部屋だろう。そこでのスキャンダルをおれに発見されてしまったというわけ。大スクープだ。

 こないだも、高一のかわいこタレントのベッドシーン・スキャンダルにぶつかったし。おれがインタビューにいくと、必ず、偶然やら手違いで、特大スクープになってしまう。

 芸能人はおれを「悪魔のレポーター」と呼ぶ。

 ……意気揚々と社に帰ると

 サングラスの男が待っていた。

「すまんが、きみ、今日から社会部に移籍してもらうよ」

 編集長が、黒メガネの男をチラチラ見ながら宣告する。男は、

「ぜひ、経済産業大臣の担当になって欲しいのだ」

 次期首相といわれる、大物。

おれは初仕事に向かった。合同記者会見。ところが遅刻してしまった。裏口からこっそり車で出ていく大臣を見かけて、あわてて追跡。何もしないで帰るわけにはいかん。

 料亭に入った。なかなか入れてくれなかったが、何とか忍び込んで、大臣のいる部屋に入った。

「すみません。インタビューを」

 大臣、蒼い顔。前にはどこかで見た大会社の社長たちの顔。テーブルの上には酒肴のほかに、何かの書類。中をのぞくと、産業界との密約が……

 ……そうか。「悪魔のレポーター」のおれは、大臣を失脚させるために。

 それは大ニュースとなって、野党の格好の餌食となった。

 大殊勲で、ご褒美たんまり。ところが、直後にクビにされてしまった。会社としても存在が危険すぎると判断されたらしい。

 その上、政界から命まで狙われだす。フリーライターとなったおれを怖がる奴は、あらゆる業界から山ほど。刺客は段々増えてくる。

 駅では線路に突き落とされ、歩道ではなぜか意識不明になったダンプに轢かれかける。警察に届け出たら、いきなり手錠をかけられそうになった。ひええぇっ。こっちまで。捕まったら抹殺されるぅ。

 晩に、人目につかない安ホテルで寝ていたが、夜中にのどが渇いて外の自販機に買いに出た途端、

 安ホテルは大爆発した。

 ……だめだ。もう逃げられん。えーい、どうせ死ぬなら!

 おれは、地球物理学者にインタビューしに行った。

 案の定、データを前に、真っ青になって叫んでいた。

「ああああっ。地球の終わりだぁ」

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