宝島

 彼はとある家の前で立ち止まった。ヨット等で、世界中を単独航海して回っているエフ氏の家。

「うむ、ここだ」

 彼は黒覆面をし、ポケットの中のピストルをしっかり握り、ノックした。

「どなたですか」

 中から声。ドアを開け、さっと中に入ると、ピストルを中のエフ氏に突きつける。

「強盗だ。騒ぐとこいつが火を噴くぞ。さあ、おとなしく金を出せ」

 エフ氏はびっくりした様子だったが、ごくりとつばを飲み込んで、答える。

「金ですって。ありませんよ。あなた、私を誰だか知ってるんですか」

「ああ。世界中を単独で航海しまくっているエフだろう。ひっきりなしにヨットで航海してるそうじゃないか。それだけの事ができるということは、金のある証拠」

「冗談じゃない。スポンサーからのわずかな金も、著書の印税も、有り金全部、航海の費用に充ててしまってて、金なんか全くないですよ。あるのは借金ばかり」

 男は顔をしかめて、部屋の中を見渡す。

「ううむ、確かにあまり金まわりのいいようには見えんな。くっ、見当外れか。

 仕方ない、証拠を隠滅して、ずらかるとするか」

 エフ氏に引き金を引こうとする。エフ氏もあわてて

「殺す気か。誰にも言いません、あなたが来たなんて。助けてください」

「目撃者を始末するのは、俺の主義でね。悪く思うな」

「そんな。命だけはお助けを……

 そうだ。助けて頂けば、代わりにすごい宝のありかをお教えしましょう」

「宝だと。本当か?で、値打ちはどのぐらいのもんなんだ」

「宝石の事はあまり知りませんが、たぶん金に換えて、安全な投資でもすれば、利子で小さな国くらいは、養っていけると思いますよ」

 少々オーバーな気もするが、相当なモノだということは確からしいな。

 で、その場所は?」

 エフ氏は、太平洋の地図を広げて、一点に印をつけた。

「何度目かの太平洋航海の時に見つけましてね。まさしく宝島と称すべき小島。何しろ小さくて、どんな地図にも載ってない。誰も知らないはずです。

 分かりにくいでしょうから、その付近の海図と、緯度経度を書いておきましょう」

 紙に付近の海図、緯度経度を書き、場所に×印をつける。

「ふふ、これさえあれば、もうお前には用はない。が、約束を破るのも、気分が悪い。生かしておいてはやるよ」

 彼はピストルの柄で思い切りエフ氏の頭を殴って気絶させた。猿ぐつわをかまし、手足を縛りその上から縄でぐるぐる巻きにして、押し入れに入れる。

 身動きできないまま餓死するか、いずれ誰かに発見されるかは分からないが、十分な足止めにはなるだろう。


 かくて、彼はその島へと旅立った。一種間以上が過ぎ、ようやく目的の島にたどり着く。旅の途中、島のどこに宝があるかを聞き忘れたのに気づいたが、今更引き返す気にもならん。小さいというから、島中探せば何とかなるさ。

 が、その島は、探し回る必要はなかった。人が十人乗っかれるかどうかのちっぽけな岩だったのだ。潮の具合では水没しそう。

 見渡しても、別に宝がありそうなところはない。岩の下にでも埋めてあるのかと思ったが、持ち上げるところもないし、持ってきた道具で穴をあけようとしても、硬くて穴をあけるどころではない。

 岩自身の下にあったとしても、クレーンでも持ち上げられそうもないし足場もない。

 だいたい、そうだとしても、エフ氏が発見できる訳もない。

「うーん。エフの奴の苦し紛れの嘘か。どうも話が大きすぎると思った。簡単に持って帰れるようなら、奴が真っ先に持って帰るはずだしなぁ」

 悔しそうにつぶやくと、岩から海へと去っていった。その、岩全体がダイアモンドの原石の小島から。

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