災難

 深夜。マンションの一室の前に、泥棒が立っていた。

 明かりは、ついていない。ドアは…… 鍵がかかっていなかった。不用心な。しかし、都合がいい。泥棒は、そっとドアをあけ、音を立てずに中に入り込んだ。中を見ると、細君らしいのが寝息を立てていた。

 しめしめ。抜き足、差し足、忍び足。泥棒、部屋の中に入る。あたりは真っ暗だ。

 と、細君、突然飛び起き、枕もとのナイフを掴むと、泥棒の胸元めがけてグサッ。眠ってなかったのだ。泥棒、胸を押さえ、くずれる。

 その時、夫の声。

「ただいま」

 ほろ酔い機嫌でいい気なもんだ。浮気の相手につけられたキスマークも落としてない。まあ、暗いから、細君には見えないが。

「えっ。あなた、今帰ったの」

 夫はうなづく。

「うん、そうだよ」

 細君、ナイフをポロリと落とすと、犠牲者を指していう。

「あらぁ。じゃあ、これ誰なの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る