今年16歳になる幼馴染が婚姻届を持って僕の隣に引っ越してきた件~来年から結婚できる年齢が変わるからって慌てないでください~
第83話 私の経験則によれば、悠乃くんは五回に四回は最初にパーを出すはずだったのに……
第83話 私の経験則によれば、悠乃くんは五回に四回は最初にパーを出すはずだったのに……
さて、伊吹の作ったお弁当に舌鼓を打つこと小一時間。
「「ごちそうさまでしたー」」
「いえいえ、満足していただけたようで何よりです」
僕ら三人は綺麗に伊吹が持ってきた三段のお弁当を平らげた。稲穂さんなんか途中、
「……うう、美味しすぎる、保冷剤詰め込んで明日の晩ご飯にしたいよう……」
とまで言い出すレベルだ。多分、そこまで日持ちはしないだろうけど、最大級の誉め言葉っていう意味なんだと思う。
「でも、なんかお腹いっぱい食べたら喉が渇いてきましたね」
「……まあ、唐揚げとかポテトで水分飛ばされた感は否めないね」
「持ってきたお茶も大分減っちゃいましたし、自販機で何か買いますか?」
「うん、賛成―。わたしも何か飲みたくなっちゃったよ」
「だったら僕が買いに行くから──」
話の流れとして飲み物を買う展開になったので、おもむろに立ち上がって財布を預けたコインロッカーに向かおうとすると、
「せっかくなので、じゃんけんで決めましょうっ!」
突如、パーカーを着たままの伊吹が僕の行く手を遮ってそう言いだした。
「……え? ど、どうしたの伊吹急に」
「……ここでおっぱいさんに行かせれば悠乃くんとふたりきり悠乃くんとふたりきり」
おーい、本音が漏れてるぞー伊吹さーん。あと、それって稲穂さんにも同様のチャンスを与えるからハイリスクハイリターンなのでは?
「お、奢りとかじゃないならわたしは別にそれでもいいけど」
「いや、それはナシでいいですよ」
もしそれで稲穂さんが当たってしまったら本気で申し訳なくなるから。
「それじゃあ、一発勝負で行きますよー」
伊吹の音頭で、僕ら三人は揃って右手をグーにして差し出し、
「さいしょはグー、じゃんけん──」
──そして、綺麗に僕ひとりだけが負けた。
「あはは、負けちゃったか。じゃあ予定通り、僕が買ってくるよ。伊吹は何がいい?」
「……うう、そんなはずは、私の経験則によれば、悠乃くんは五回に四回は最初にパーを出すはずだったのに……」
「い、伊吹?」
「……で、では、私はオレンジジュースでお願いします」
「オッケー。稲穂さんはどうします?」
「えーっと、ミネラルウォーターかなっ」
「……味付きとかのほうがいいですか?」
「ううん、普通のお水でいいよっ」
単純に水が飲みたいならそれはそれでいいんだけど、稲穂さんの場合別の理由も邪推してしまうのが……。
「わ、わかりましたー。それじゃあ買ってきまーす」
まあ、本人が水でいいと言っているのなら水を買ってくるまで。僕はそそくさとコインロッカーに向かっては、自分の財布だけを回収して、自販機で注文の品を購入。再びコインロッカーに財布を預けてふたりのもとに帰る。
この間、十分も経ってなかったと思うんだけど、
「「むううううううう」」
いや、僕がいない間に何があったし。
「え、えーっと、買ってきたけど……な、何をにらめっこしているの?」
「あ、ありがとうございます悠乃くん。いえ、ただウォータースライダー行きたいですねーって話をしていただけなので」
「うん。別に、石原くんどうするのかなーって話をしていただけだから。うん」
「へ、へー。そうなんだ」
なんだろう、またじゃんけんの種になりそうな予感がするよこれ。
僕がふたりにオレンジジュースとミネラルウォーターを渡してからも、さながら猫の縄張り争いよろしく、ふたりの睨み合いは続いていた。
そんな不穏な空気を察したのか、少しずつ西のほうから雲が流れてきているように思えたけど、気のせいだろうか。気のせいであって欲しい。でないと、ふたりが天気予報を狂わせたってことになってしまうから。
「……っていうか、そんなにウォータースライダー行きたいなら、ふたりで行けばいいんじゃ。僕はお留守番しているからさ」
「「でしたら(だったら)私(わたし)もお留守番します(するよっ)」」
「「「…………」」」
ほんと、仲良いのか悪いのか。
「……も、もうお好きにしてください……」
「じゃあまたじゃんけんで決めましょう!」
「望むところだよ!」
ねえ、やっぱり実は仲良いんじゃないの? ふたりって。
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