今年16歳になる幼馴染が婚姻届を持って僕の隣に引っ越してきた件~来年から結婚できる年齢が変わるからって慌てないでください~
第66話 そういえば、前の耳かきから三か月くらい経ちましたし、そろそろ耳も痒くなってくるころじゃないかなーって
第66話 そういえば、前の耳かきから三か月くらい経ちましたし、そろそろ耳も痒くなってくるころじゃないかなーって
親凸……親凸……僕に会いに来るつもり……。
今日の昼休みに稲穂さんから告げられた一言に、完全に僕は胃が持っていかれてしまい、帰りの電車で本を読みながらも、頭のなかではそんなことをひとりぼそぼそと呟いていた。
そんな調子で家に帰ると、
「あ、悠乃くん、おかえりなさーい」
台所では晩ご飯の支度をしている伊吹のエプロン姿が目に入る。匂いからして、これはカレーだろうか。
「……た、ただいまー」
「……? どうかしたんですか? ちょっと浮かない顔して」
すると、僕の内面を読み取ったのか、すかさず伊吹は野菜と肉を炒める火を止めて、僕の真正面に立つ。
「……え? いや、な、なんでも……」
「私を誰だと思っているんですか? 悠乃くんのことなら何でも知っている幼馴染兼将来のお嫁さんですよ? 悠乃くんの表情を見れば何かあったことくらい想像がつきます」
おう。もう僕、伊吹に隠しごとできないね、これ。
がしかし、稲穂さんのお父さんが東京に来て僕に会うつもりですなんて言ったら、それはそれでひと悶着生まれそうだ。
どうせどこから漏れるとは思うけど、ギリギリまで情報は伏せておいたほうがいいだろうから、
「……ま、まあ、色々あったんだよ、色々」
と、はぐらかして台所から部屋へと通り抜けていった。
すると、テーブルの上には何やら「三者面談の日程について」と書かれたプリントが置かれている。
「ああ、そういえば、三者面談の日程が決まったみたいなので、確認しておいてくださーい」
「う、うん。おっけー……」
プリントを見ると、伊吹の順は初日の先頭と来た。つまるところ、再来週の月曜午後四時。
……一番他の生徒に目がつく時間じゃん、これ……。一般生徒もギリギリ残っていそうな時間だし、嫌だなあ……目立ちそうで嫌だなあ……。
なんだろう、三者面談って、親と担任が話すのが嫌みたいな風潮があって、でも伊吹にとってみればそれが僕になるわけだから、全然罰ゲームでもなんでもなくて、むしろ保護者代わりに話を聞かないといけない僕が罰ゲームまであって。
……人生でこんなに三者面談で胃を痛める奴、そうそういないと思うんだ。僕。っていうか、スーツとか着ないとだめ? まあ、夏だからクールビズでもいいだろうけど、なんかそれなりにちゃんとしか格好したほうが良かったっけ? あれ、僕のとき、親どんな格好で来てたっけなあ……。
「……そ、そういえば、テストのほうは調子どう? いけてる?」
考えても思い出せないし、このままではどつぼにはまってしまう。気を取り直すため、脳内で話題を変えようと台所でカレーを作り続けている伊吹に尋ねると、
「全然余裕ですよ? それもこれも悠乃くんのおかげですね」
厚手の鍋に水を入れて煮込む段階に差し掛かったみたいで、ちょっとリラックスした体勢の伊吹がおたまで鍋のなかをくるくるとしていた。
もはや、伊吹が演じていたおバカキャラは完全に捨て去ったみたいで、結果を取り繕う(……下方修正で取り繕うって言うのか?)ことはしないみたいだ。
「そ、そう。……なら良かった」
ま、まあ、さすがに今回は先生に体調を心配されるようなことにはならないだろう。小テストとテストじゃ意味合いが全然違うし。
「それとも、悠乃くん的には、頭が悪い子のほうがよかったですか?」
「別に全然そんなことはないよ」
……というか、学力の調整を人ひとりの好感度のためだけにしようとしないで。何その強キャラ感。たまにいるよね、満点取れるのにわざと点数調整するキャラ。
しばらくすると、カレーが出来上がって火を止めた伊吹が、エプロンの後ろ紐を解きながら部屋に戻って来る。と、僕のすぐ真横に正座しては、ぽんぽんと自分の膝の上を叩いた。
「……え? ど、どうかした?」
「そういえば、前の耳かきから三か月くらい経ちましたし、そろそろ耳も痒くなってくるころじゃないかなーって」
「……は、はあ」
「それに、私も最近テスト勉強で悠乃くんのお世話がおろそかになっていた節があるので、ここらへんでちょっとポイントを回復しないとなあと思いまして」
「べ、別に僕は全然気にしていないけど」
「いえ、どっちかというと私に向けてです。悠乃くんに何かしてあげないと、落ち着かないんで」
……それ、もはや依存症か何かなのでは。
そう思ったけど、怖いので僕は口にしないでおいた。
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