第52話 あてつけですかっ! 貧乳の私に対するあてつけですかっ!
「……え、えーっと……こ、これには深いわけがありまして……」
怒り心頭の伊吹をなだめるため、僕は言い訳タイムを始める。
「ふうん、女性用の下着を買うのに深いわけがあるんですね。実は女装の趣味があったとかですか? それならそれで私は受け入れますけど」
……女装趣味よりかは浅いんだよなあ……理由。
「い、いやあ……そ、そういうことではないんだけど……」
「じゃあ、別の女性に下着をプレゼントしたんですね。……それはそれでなんかイラっときますね」
額のあたりに怒りマークが見えそう……。
「それで? 誰に買ってあげたんですか? 私ではないのは確かですけど。あ、それとも今ここでプレゼントしてくれるならポイント高いですね」
「……いや、僕伊吹のサイズ把握してないから……。把握してたら伊吹だって気持ち悪いでしょ……」
「聞いてくれたら教えるのはやぶさかではないですよ?」
スムーズな返答に僕は言葉を失う。……まあ、そういう子か、そういう子だったね。
「で? 誰にですか?」
段々質問のフレーズが雑になってる。早いところ答えないと「で?」まで短くなって伊吹のイライラメーターが限界値振り切りそう。……ちょっとばかし見てみたい気もしたけど僕の安全にかかわることなのでまたの機会にしておこう。
「……い、稲穂さん……」
「へー、そうなんですね。胡麻さんに下着を贈る関係だったんですね、おふたりは」
「ちっ、違うんだ、そ、そういうつもりじゃなくて、ご飯食べにいったときに、稲穂さんのブラのホックが壊れちゃって……そのままにするのはあれだし、稲穂さんお金持ってなかったから、それで……」
もうどうしようもないので、ありのままを話すと、
「あてつけですかっ! 貧乳の私に対するあてつけですかっ!」
ありもしない胸をペタペタと触る素振りをしてから、悲しそうな顔を見せる伊吹。
「いっ、いやっ、そういうつもりじゃ……」
「十六年生きてこのかた、外出先で下着が壊れたことなんて一度もないですよ、なんですかその悠乃くんが読んでいる漫画のヒロインにありそうなシチュエーションは、どうせ私は見栄張ってパッド重ねてサイズ誤魔化そうとする哀れな無乳ですよっ!」
……ええ? もう僻みのレベルが軽く高尾山超えそうなんですが……。どうしろとおっしゃるのですか? っていうか伊吹もその手の漫画読むんだ……。
「……ふんだ、耳障りのいいこと言う悠乃くんも、本当は胡麻さんくらい大きいほうがいいんだ、やっぱりおっぱい星人なんだ」
「お、おっぱい星人て」
久しぶりに聞いたぞそれ。
「悠乃くんなんか、胡麻さんのおっぱいに挟まれてそのまま窒息しちゃえばいいんだ」
それに、次第に口調が幼くなっているし……。っていうか毒も強くなってるよ、毒も。
「……あ、でも悠乃くんが死んじゃうのは悲しいのでやっぱりそれはナシで」
「ど、どないしろと言うんですか……僕に」
もはや自力で解決できる自信がないので、僕は伊吹に丸々折衷案を提示するよう投げた。
「……私にも新しい下着買ってください」
その答えは、まあおよそ自然な流れとも言えるものだったのだけど、
「……まじで言ってる?」
「まじです。なまらまじです」
「……なんで東京の人が無理やり北海道弁喋ってみましたみたいな例文を使ってるの」
「私だって悠乃くんにめんこい下着買って欲しいですっ」
「無生物にめんこい使う道民初めて見たよ僕」
「私はいつでも暇なので、悠乃くんの都合がいいときに買い物に行きましょう。それで胡麻さんの件は手を打ちます」
「……け、決定事項なんですね、それは」
「はい。決定事項です」
怖いくらい綺麗な笑みで、クレジットカードの明細を僕に見せつけるものだから、頷くことしかできなかった。
「わ、わかりました……そ、それでいいです」
「それで、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
ああ、これで伊吹の追及タイムが終わる、そう思ってひと息ついたのも束の間。
「明細の、この行って何の買い物なんですか? 他は、本屋さんだったり携帯代の支払いだったりでわかるんですけど、ここだけよくわからなくて」
「……え、えーっと……」
エロアニメの購入代とは口が裂けても言えない。
「あ、あれだよ、動画配信の月額課金だよ」
「へー、そんなサービスもあるんですね。知らなかったです」
「う、うん……まあね」
来月から、クレカの明細はメールで届くようにしておこう。胃がもたない。
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