第4話 愛さえあれば関係ありませんっ
「……それで、よく東京まで来たね。いや、……動機っていうか、理由はもう聞いたけどさ……」
晩ご飯を食べ進めながら、僕はそんなことを尋ねる。
「高校は東京の学校がいいって言ったら、お父さんもお母さんも『いいんでない』って言ってくれたので、それで」
やっぱり適当だなあ、あのご両親は。
「それに、大学進学するまであと三年も悠乃くんと離れ離れのままは、耐えられる気がしなかったので」
「……そ、そっか、ふーん……」
僕はずず、と豆腐とわかめの味噌汁をすすって、適当にお茶を濁す。
「あと、来年から結婚できる年齢が男女ともに十八歳になっちゃうので、結婚するなら今年しかないんですよね」
「ずずっっごほっ、けほっ」
続けて言ってきた伊吹の台詞に、すすっていた味噌汁で思わずむせそうになってしまう。
そういえば、成人年齢が十八歳に引き下げられるとか言っていたけど、気にするところそこだったりする? っていうか、今どき民法改正を気にする高校生なんているの? 知らないけど、知る予定もないけど。
「……そ、そこは十八歳になるまで待つ、という発想にはならないの……?」
いや、別に伊吹が十八歳になった瞬間、結婚するつもりはないよ。もちろん、十六歳になったとしても。
「待っている三年の間で、悠乃くんが誰かに取られちゃうかもしれないのは、嫌なんです」
「……い、いや、そんな、別に僕、そんな彼女できる予定とかないし……」
「予定はなくてもできるかもしれないじゃないですか」
「……そ、それは……ま、まあ……そうかもしれないけど」
ないと思うけどなあ……。異性の知り合い、片手で数え切れるくらいしかいないし。冗談抜きで。母親、伊吹のお母さん、伊吹、あと月一くらいのペースで飲む先輩と……それくらいかなあ。母親を入れている時点でかなり切ないことになっているのは察してもらいたい。
「……で、でもこのご時世高校生で結婚って、いくらなんでも」
「愛さえあれば関係ありませんっ」
「は、はあ」
J―POPの歌詞みたいな台詞だな……。
僕が表情渋くご飯を食べていると、ポケットに入れていたスマホがブルブルと震え出すのを感じた。
「……ごめん、ちょっと電話出る」
液晶表示を見ると、件の片手で数えられる異性の知り合いからの電話だった。ちなみに、親ではない。
「も、もしもし、石原です」
テーブル側から玄関前まで移動して、電話に出ると、聞き馴染みのある柔和な声がスピーカーから聞こえた。
「あ、もしもしー石原くん? そろそろ飲みに行きたいなーって思ってて。今週空いている日あるかな」
「今週だったら、僕はいつでも──」
スマホを耳元に電話を続けていると、ふいに、「じー」という視線を強く感じたので、そっちのほうを振り向くと、
「──だ、大丈夫、で、ですよ?」
伊吹が嫉妬混じりの顔つきで、僕をジッと見つめているのがわかった。
「そう? じゃあ、明後日とかどうかな、その日だったら私バイトもお休みなんだけど」
「い、いいですよ、それでオッケーです。場所はいつものところで大丈夫ですか?」
「うん、それでいいよ。じゃあ、明後日はよろしくねー」
そうして電話が切れ、スマホをポケットにしまうと、
「……やっぱり悠乃くんの嘘つき、仲良い女の人いるんじゃないですか」
半分泣きそうな目で伊吹が僕に抗議するではないか。
「ちょっ、待って、誤解だよ誤解、そんな仲じゃないから、たまに一緒にご飯食べるくらいだからっ」
「でも電話の相手の人、なんだか楽しそうに話していましたよ?」
「ふ、普段からそういうふうに話す人なんだよ」
「……へー、相手の人のこと、よく知っているんですね」
何? その誘導質問。どう答えても詰むじゃんそんなの。
「……ううう、悠乃くんの浮気者」
「うっ、浮気も何も、ぼ、僕ら付き合っているわけじゃないし……」
「結婚の約束はしているじゃないですか」
「……え、ええ……?」
どうしろと? 僕はどうすればいいのですか?
電話を切ってからというものの、一気に伊吹の機嫌が悪くなってしまい、なだめるのが大変だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます