第5話 トレント達の怒り

「そう、あなた達にはトレント達の怒りを鎮めてきて欲しいのよ」


 僕は頷きつつも、エルフの姫に問い返した。


「なぜトレント族は怒っているのですか?」


「それは、人間達が木々を切って、燃やして、破壊しているからよ」


「と言う事は既に人間達は侵攻していると言う事ですか?」


「違うわ、侵攻をする準備をするため、木々を伐採して武器屋ら何やらを作っているわ、そこはドワーフ鉱山より遥か南に位置しており、自然にできたルビーの橋があるの。そこから人間達はトレント領にやってきて木々を伐採してるのよ」


「なるほど、確かに世界樹の記憶には存在しているな、あそこの人間達の情報も足りぬしな、ちょっと調べてこよう、そん時にトレント達の怒りを収めてこよう、さすれば、人間達の侵攻の時仲間になって防いでくれるな」


「そうしましょう、元々エルフ族には選択肢はないのよね、ウッドヒューマンのジュレイ殿あなたの護衛にタクロウを預けましょう、彼は遥か先まで見渡す【遠見】の魔眼を持っているわ、なによりその知識は博士になってもおかしくないくらいなのよ」


「御意、姫様の命令ならば、ジュレイ殿を助けて見せます」


「タクロウ、よろしく頼むぞ」


「はい、ジュレイ殿、あなた様の命この俺が守ります。どこかにいるドワーフなどを凌駕して活躍してみせましょう」


 後ろではバリフィンガーが笑っている。

 それを見たタクロウはばつが悪そうに眼をそらす。


「では姫様、時間がないので、すぐに出発します」

「そうしてちょうだい」


「タクロウ分かってると思うけど、バリフィンガー殿に迷惑をかけるなよ」

「姉上、それはありえないという事です。姉上こそ姫様を守ってくださいよ」


 シギィはこくりと頷いて見せた。

 その後、旅の準備をしようとしたのだが、それまで予知されており、必要な道具や食料を運んできてもらった。

 ライガーウルフの背中にそれらの道具を乗せると、僕たちは魔法の大樹で作られた城から出発した。

 

 その時太陽は真上に着ていた。

 ちなみに食事はすませてあるので、旅を続ける事となった。

 

 ひたすら歩き続けていると、ドワーフ族のバリフィンガーにつっかかるエルフ族のタクロウの姿が微笑ましかった。

 まるで祖父と孫のような感じで、バリフィンガーは文句や罵倒されてもへらへらと笑っているだけ。


 それに対して苛立ちより快感を覚えてしまったタクロウは文句と罵倒を続ける。


「だからドワーフはダメなのだ、その足の短さ、それでは長くは走れぬぞ」

「ドワーフは走るより歩くのさ、ひたすら歩いて長い時間を歩くのだぁ」


「ドワーフ族よりエルフ族のほうが遥かに勝っている。だがドワーフには炭鉱という技術と最先端の鍛冶屋の技術がある。そこは認めてやろう、嬉しいだろ」

「うんうん、嬉しいねぇだぁ、エルフ様に褒められるとはのおお」


 最初こそ文句と罵倒が繰り広げられていた。

 いつの日かタクロウはドワーフ族に対して認めていこうという思考に切替わっていった。


 それを感じているのかいないのか分からないが、バリフィンガーはにこにこしていた。

 ライガーウルフのライはそんな事はどうでもいいとばかりだった。

 彼はただ真っすぐに突き進んでいるだけだった。


「そろそろだ。2人とも会話を慎め」

「御意、ジュレイ様」

「うむ、ようやくかのう」


「ライ、ここで待機だ」

「わしとて戦えるぞ」

「戦いに行くんじゃないトレント達に話に行く」


「わしは荷物を守っていよう3人ともがんばれよ」

「ライ殿、色々と済まぬ、荷物運びの役をやらせてしまって」

「エルフの坊主が気にするな、わしは好きで荷物を運んでおる」

「それがだぁーライどののおぉ仕事さだよぉ」


 最後のバリフィンガーが発言すると。

 ライを後ろに残して、鬱蒼と茂る森の中に入っていった。

 その森は普通の森とは殆ど違っており、木々の1本1本の色が濃かった。

 葉っぱのエメラルドグリーンの色とて濃いエメラルドになっている。

 なによりおかしいのは風により枝とかが動くのは分かる。

 しかし無風なのに枝などがすごく揺れている。

 まるで行きているようにだ。



「これは、久方ぶりじゃのう、ウッドヒューマンを見るのは、わしらトレント族と先祖は同じじゃがのう、そういうとエルフもじゃが、そこにいる坊主もエルフかのう、こら珍しい、鉱山の民のドワーフ族までおるわい、かあちゃんやおもろいのがきたぞい」

「ほう、少し離れた所にライガーウルフまでおるねぇ、くんくん、ゴブリンとオークの匂いがする。ウッドヒューマンからかなぁ? して、貴様らはわしらを燃やしにきたのかぁ?」


 目の前には2本の大木があった。

 1本の大木には沢山の林檎が実っていた。

 もう一本の大木には沢山の蜜柑が実っていた。

 なにより人の形のようであり大木の形そのものであった。

 2本の巨大な足があり、ゆっくりとゆっくりと動くようだった。


「僕はウッドヒューマンのジュレイと申します、こちらがドワーフ族のバリフィンガー、エルフ族のタクロウ、少し離れた所で待機させているのがライガーウルフのライです。ゴブリンとオークの匂いは僕についていたのでしょう、世界樹の麓で戦争に備えて拠点を作っています」


「ほう、戦争がはじまるのかいのぉ、人間を追っ払ってくれんかのう、わしらの子供達が次から次へと伐採されておるでな、数億年前に決めた条約では人間はトレント族の領地で伐採しないと決めたのだがのぉ、わしらにとって数億は日常だがのう」


「おそらく人間達はその事を忘れています。ルビーの橋からやってきたそうですね、これまでなぜ大丈夫だったのですか」

「そうじゃな、あそこには巨人にあこがれたサイクロプスがおってな、一つ目のやつでな、そいつが数百年は暴れていた。それが突然いなくなったんじゃ、おそらく洞穴にいるだろうが、どうしたものじゃろうか」


「なるほど、僕達で様子を見てこよう」

「そうしてくれんかのう、それと人間達に数億年前の約束を思い出してほしい」

「内容は覚えてますか?」

「忘れたんだがのう」

「それも調べてみます」

「助かるのお、子供達が伐採されるのは気が気でならんのでなぁ、さすれば怒りは静まり、子供達は安心し、沢山の木の実を実らす、その時になればエルフ族が収穫にこようて」


「なるほど、だからエルフ族はトレント族の悩みを解決するのですね」

「それもあるがのう、色々とめんどくさい契約みたいなものじゃて、では達者でな」


「はい、すぐ戻ってきますよ」


 僕達は一度ライガーウルフのライがいる所まで戻ると、作戦会議を開いた。


「まず、その巨人に憧れたサイクロプスを見つけて話を聞こうと思う」

「うむ、おらぁが知ってるサイクロプス族は一つ目で巨人のはずだぁ、なぜ巨人に憧れるのか意味が分からないだぁ」

「それは、俺も同感だ。意味が分からないし、サイクロプスの1つ眼は全ての魔法を遮断するぞ」

「わしはサイクロプスの事は基本的に知らん」


「まずはその洞穴に行こう、世界樹の記憶にはあるから、迷わずいけるぞ、だが近くにルビーの橋があり、人間達がいるかもしれない」

「1つ気になっていたんだがなぁあ、おらぁ達の事を侵略しようとしている人間と、トレント族の約束を忘れて伐採を続けている人間達は違うのかぁ?」


「ああ、恐らく違う、人間達には何種類か種族がある。ロックライト山脈の北がセレイント族の人間達だ。これから向かうのがロックライト山脈の南に位置する人間達のフォボル族だ。それだけしか分かってない」


「うむ、めんどうくさいのぉ」

「不思議だな、ドワーフよ俺もめんどうだと思った」

「あれか犬か猫の違いか」

「そこまでは違わないよライ、では出発しよう」


 それから僕達はまた旅を重ねる事になった。

 ひたすら歩いて歩いて、その洞穴に到着した。


 少しさらに歩けばルビーの橋があった。

 ルビーの橋の下はおそらく崖になっている。

 僕達はおそるおそる洞穴の中に入る事となった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界樹の樹木から誕生したウッドヒューマンは強くなりモンスター王国を建国する MIZAWA @MIZAWA

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ