第4話 英雄の旅立ち
僕とバリフィンガーは玉座に座るドワーフ王を見ていた。
彼は腕組みしながら難しい表情を浮かべていた。
「して、バリフィンガーよ何かしたい事があるのではなかろうか」
「はい、ドワーフ王よ、おらぁジュレイ殿を助けたいだぁ」
「うむ」
「ジュレイ殿はおらぁに戦いを通して何かを教えてくれた。友達を助けるのはおらぁの役目だ」
「うむ」
「おらぁは外の世界を見てみたい。人間どもがおらぁ達の村に侵攻して滅ぼしたのなら、おらぁは人間達を倒す。倒して倒して倒しまくる。その為にはおらぁはジュレイ殿を守る」
「うむ、よかろう、バリフィンガーよ外の世界に行き、色々な事を学べ、わしらは英雄の帰還を待っておる、さて、世界樹の子ジュレイよわしのバカ息子をよろしく頼むぞ」
「はい、任せてください」
「荷物は外にいるライガーウルフ殿に渡してある」
「ドワーフ王、いえ、父上、色々とお世話になりもうしただぁ、絶対に恩は返すだぁ」
「恩は返さなくてよい、お主が長く生きればそれだけで恩返しじゃ、この不甲斐ない父親を許してくれ」
「何をいうだぁ、あんたはおらぁにとって最高の父上だ」
「違う、人間の策に騙されて、お前の家族を殺されてしまった」
「それは人間が悪いだぁ、父上は悪くないだぁ、だからおらぁは人間達にお仕置きをするだぁ」
「ふ、バカ息子め」
「では、ドワーフ王よ、戦争の時はよろしく頼む」
「もちろんだとも、人間との戦争が起きた時、わしらは世界樹につこう」
「御意」
その時だった玉座の入り口の門が唐突に開かれた。
そこから無数のドワーフ達がやってくると、1人1人涙を浮かべて、英雄の出発を見送ってくれるようだ。
バリフィンガーは涙目になりながら、2本の角の生えた兜をぎゅっと握りしめて、その二つの穴から涙がとめどなく流れていた。
僕たちがドワーフ鉱山の門の外にたどり着いた時、暇そうにしていたライガーウルフのライがいた。
彼はこちらを見て牙をにやりとつり上げた。
後ろからは未だに英雄の出発を悲しんで、ドワーフ達が泣いている。
「これは何かのパレードか」
「違うよ、ライ、彼らはバリフィンガー殿の出発を喜んでいながら悲しんでいるのさ」
「ふむ、そういうものか、お主がバリフィンガーか、体が小さいな」
「しかたないだぁ、おらぁはドワーフだからな」
「それは失礼した」
「ライ、ここからは歩いての出発だ」
「それもそうか、ドワーフ殿がおるからな」
「それもあるがエルフの森はお前のスピードでは危険だ。無数の木々があるからな」
「確かにそうだ。そうだバリフィンガーよお主の荷物ならこのわしが運んでやる」
「それはありがたいだぁ、だけどドワーフ族をみくびってもらっちゃーこまるだぁ」
そう言うと、バリフィンガーは片手だけでドワーフ1人くらいの大きさの荷物を背負ってしまった。
「ふ、どうやら取り越し苦労のようだったようじゃ」
「では、ライ出発するぞ」
「そうしよう、あの歓声がうるさくてたまらんわい」
それから僕とバリフィンガーとライは話をしながら前に進むことになった。
次の目的地はエルフの里と呼ばれるところだ。
そこは木々を上手く魔法で操って城にしてしまったところだし。
世界樹の申し子である僕の遠いい親戚みたいなものだ。
無数のエメラルドの葉っぱが舞い上がり、太い木々の根っこを避けながら、ひたすらの行軍、1日が経ち、2日が経とうとしている。
野宿はさほど辛いものではなく、バリフィンガーが色々とやってくれた。
さすがは英雄と言った所だろう。
ライはバリフィンガーの事が気に入って、いつも2人で話をしている。
僕は2人の会話を聞きながら、にこやかに一緒になって笑っている。
太陽が昇り、太陽が沈む。
月が光、月が隠れる。
雲は流れ、雨は降らず、風は吹く。
いつしか1週間くらいが経過したころ。
ようやくそれは見えた。
森の中に突如出現したその巨大な城、いや要塞みたいなものだろうか。
世界樹の記憶で認識した。
入口には無数のエルフ達がいる。
彼等はどうやら僕の事を待っていたようだ。
1人の眼鏡をかけて天然パーマをしたエルフがやってきた。
彼は頭を下げると。
「お待ちしておりました。姫様があなた達が来ることを予言していました」
「そ、そうですか、そのような力がおありのようですね」
「はい、姫様は未来を見る事が出来ます。しかし見えない事もあるようです。それとそこのドワーフはここで待ってもらう」
バリフィンガーはにやりと笑った。
「まぁ仕方ない、ドワーフとエルフはいつも仲が悪いだぁ」
「よく言う、チビでのろまのドワーフが」
「そっちは細くて耳がとんがってるエルフだぁああ」
「んだと、やるのか」
「おうやってやろうじゃないかだぁ」
「よせタクロウ、姫様はそれも予言していた。ドワーフも入れろとのことだ」
「なぜですか、シギィ姉上」
「お前は姫様の予言を無視するのか」
「い、いえ、滅相もございません」
そう言ってタクロウと呼ばれたメガネをかけ天然パーマのエルフはエルフの里に戻っていった。
「すまぬな、あいつは歴史が好きで、ドワーフとエルフのいざこざを知っておるのだ。それも盲信するくらい信じている。あれは作り物が多いというのにな、弟が失礼したドワーフ殿、君は英雄のバリフィンガー殿だな」
「うむ、気にしておらんだぁ」
「それでこそ英雄だ。さて、こっちにこい」
長身でやはり天然パーマのブロンドの髪の毛をしている美形のシギィさんに連れていってもらった。
エルフの里、つまり砦のような要塞の中はエルフ達の家が無数に広がっていた。
大勢のエルフが商店街で買い物をしたりしている。
彼等の瞳はキラキラに光っていた。
彼等はドワーフであるバリフィンガーを見て悪態やら文句をついているが。
その度にシギィさんが怒鳴り声を発している。
しかもバリフィンガーをけなすと姫様の敵対行動とみなすと叫び。
彼等は真っ青になってバリフィンガーに謝ったりしている。
しばらく歩いていると、エルフの里の要塞の中に木材で作られた塔が見えてきた。
それは雲の上まで続いているのに、エルフの里の外からは見えなかった。
「幻術がかけられている。外から攻撃されてはたまったものではない、遥か頂上は雲の上にある。1階にワープ装置があるからそれでいくぞ」
「助かります」
「まったくバリフィンガー殿の悪口ばかりで、ライガーウルフの事には一切ふれんなぁ、エルフ族とやらは」
「すまぬな、ライ殿、彼等はライ殿の事をペットだと思っているのだろう」
「はん、わしはペットじゃないぞ、誇り高きライガーウルフだ」
「はは、ライはペットなんかじゃないですよ、頼もしい仲間です」
「ウッドヒューマンのジュレイ殿申し訳ない」
「気にしてませんよ、それに名前まで予知で分かるんですね」
「いや、これはわたくしの力で、魔眼なんだ。相手の名前が見えたり性質を掴める。あなたは底深く力がみなぎっている。恐ろしい方だ」
「はは、恐ろしいかな、魔眼ねぇ、いいね、そんな力は最高だね」
「はは、ほめてくれるのはあなたが初めてだ。みんな気味悪がるのだがな」
「何をいうんですか、さて、行きますよ」
塔の入り口から入って、真ん中に巨大な光り輝く魔法陣があった。
僕達はびくびくしながら、その真ん中に乗った。
一瞬で別の場所にたどり着いた事が分かる。
目の前に扉があり、シギィさんが開けてくれると。
そこから先は信じられない景色が広がっていた。
無数の宝石がちりばめられ、植物と宝石が合わさって、1つの芸術作品になっている。
玉座は1つあり、そこに1人の少女のエルフがいた。
見た目からして18歳くらいのまだ幼い感じだ。
彼女の眼には黒い布で覆われており、彼女はこちらを心の眼でじっと見ているようだった。
「姫様、お連れもうしました」
「はい、ありがとうシギィさん、ウッドヒューマンのジュレイ殿、ライガーウルフのライ殿、ドワーフ族の英雄バリフィンガー殿、色々とご無礼があったようで、申し訳ありませんわ、よくここに来てくれました。そしてあなた達に問題を解決してほしいのです。さすればエルフ族は世界樹につきましょうぞ」
僕はこくんと頷いた。
全てはお見通しと言う事なのだろう。
「はい、なんなりと」
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