第3話 ドワーフ王

「さて、世界樹の子よ何用でまいったか」


 僕はごくりと生唾を飲み込んだ。

 先ほどのドワーフ達と全然違うオーラを身にまとっているドワーフ王。

 その年齢は果てしなく生き続けた生きる山のごとしだった。


「はい、このロックライト山脈の向こうから人間達が侵攻してきます。その時に力を貸してほしいのです」

「もちろん力を貸そう、ただしドワーフの英雄に勝ってからだ」


「いいでしょう、こちらも手加減はしませんよ」

「そうでなくては困るというものだ。さぁこいバリフィンガー」


 後ろの扉がゆっくりと開かれた。

 そこから2本の角の生えた兜を深々とかぶり、兜の所に2つの穴があり、そこから大きな瞳が覗いている。


 バリフィンガーは無言でこちらを見ていると。


「舞台はこの地下闘技場じゃて」


 その後、重たい腰を上げたドワーフ王は右側に僕を引き連れ、左側にバリフィンガーを引き連れた。


 歩きながらドワーフ王は語るのだ。


「このバリフィンガーは人間達に家族を殺された。人間に恨みを持っているが、それではいかんといつも言うのじゃ、しかしバリフィンガーは1人ででも人間を殺しにいくと言う事をきかん、だからわしの家の近くで隔離しておる」


 そう、バリフィンガーの足には長い鎖が身につけられていた。

 その長さは果てしなく、おそらくドワーフ鉱山から出れないくらいの長さなのだろう。


「おらぁ、人間を皆殺しにしたいだぁ、だけどドワーフ王は許してくれないだぁ」


「だから言っておるだろう、お主には絶対に足りないものがあるのだから」


「それが、何かおしえてくれだぁ、そうしないといつまでも閉じ込められてるだああ。ドワーフの仲間達を助ける時に大勢の人間を殺しただから英雄なんぞと呼ばれてるだぁ」


「それは英雄とはよばん、じゃがドワーフ達は彼を英雄と呼ぶのじゃよふぉふぉ、さて、闘技場についたようじゃ」


 冷たい大理石のような床を歩き続けていたら巨大な扉が見えた。

 その扉を開くと地下に続く階段が出てきた。

 その階段をゆっくりと下りながら、僕は色々と考えていた。


 その思考を打ち消すほどの歓声が沸き起こった。

 それは大勢のドワーフ達の歓声であった。

 どの歓声もドワーフの英雄バリフィンガーと叫んでいる。

 僕の事は最弱の世界樹の子と叫んでいる。


 僕は苦笑を隠していた。


 巨大なリングにたどりつくと、無数の武器が並べられていた。

 バリフィンガーは片手鈍器と盾を装備していた。

 僕は子供の体をいかして短剣を選んだ。

 もちろん2人ともの武具は木材で出来ている。


 ドワーフ王が別の玉座にすわると。

 審判らしき小さなドワーフが叫んだ。


「青コーナードワーフの中のドワーフ、人類を滅ぼすためならなんだってするさ、だがドワーフ王がお目付け役だ。彼は力を蓄えている。さぁゆけ、バリフィンガアアアアアアア」


「ごおおおおおおおおお」


 大勢のドワーフ達が歓声を上げる。

 

「赤コーナーはどこの馬ともしれない、伝説の世界樹の子供、ドワーフ王に何かお願いがあってやってきたが、それはへっぴり腰ではいけないのさ、さぁ、ウッドヒューマンがジュレイィイイイイイイイイイイイ」


 いたるところからブーイングの歓声が沸き起こる。


「ではバトル開始いいいいいいいい」


 審判が叫び声をあげる。

 

「僕はこう見えても生まれたばかりの子供なんだがな」


「だが、そなたの眼は生まれたばかりの子供ではなかぁ、戦士のそれだぁああ」


「ふ、ばれていたか」


 世界樹の木々とは沢山の戦争を見てきて、沢山の殺し合いを見てきた。

 僕に備わっているのは何も知識だけではない、そこにはありとあらゆる武術や魔法が備わっている。


 僕は右手に意識を集中する。


【付与魔法:衝撃】を左手に握りしめられている短剣に付与する。


 突如巻き起った魔法の発動にドワーフ達は絶句している。


「ふ、そうでなきゃだぁあああ」


 バリフィンガーは石のリングの地面を蹴り上げると、こちらに肉薄してきた。

 僕は短剣を振った。

 それだけで衝撃波が飛び、バリフィンガーに衝突する。

 バリフィンガーは木材のシールドを破壊させながら、突っ込んでくる。

 木材の片手鈍器で僕を殴ろうとしているようだ。


【変形魔法:世界樹の盾】


 僕の腕はウッドヒューマンのそれだ。

 つまり世界樹の力が宿っている。

 右腕を世界樹の盾に変形させる事などたやすいことだ。

 バリフィンガーの木材の盾は僕の世界樹の盾に衝突した。

 

 それだけでも体全体がしびれるくらいの衝撃であった。

 しかし世界樹のほうが遥かに硬かった。


「なんとぉおお、その木製のシールドは普通じゃなかぁあああ」


「その通り、これは世界樹の盾だ。こんなこともできる」


【変形魔法:世界樹の剣】


 僕の右手と左手が木製の剣そのものに変形した。

 その光景を見ていたドワーフの観客たちは悲鳴をあげる。

 きっと僕が化け物のように見えたのだろう。


「ふ、どうやら最初の武器選びは関係なかったようだな」


 ドワーフ王が観客性から笑っている。


 バリフィンガーは木製の片手鈍器を捨てた。

 先ほど木製の盾も破壊しているので彼には武器がなくなる。


 先ほどの国王のセリフはどうやら僕自身の事だけではなく、バリフィンガーの事も言っていたようだ。


「ふ、この力を解き放つ時が来たとは」


 バリフィンガーは息を沈めて、一気に気合を込めた。

 彼の肉体が膨張しだした。

 筋肉が増強されていき、真っ赤になっていく。

 頭から湯気のようなものが生じる。


 バリフィンガーは右手と左手を構えて、こちらに突進してくる。

 そのスピードは猪の如くであった。


 僕は咄嗟に世界樹の剣で弾こうとした。

 しかし猪のごときバリフィンガーに体を弾かれて、世界樹の剣が折れてしまった。

 折れた先から蒸発してしまった世界樹の木。


 その分自分の体から魔力が失われていく。

 世界樹から生まれたウッドヒューマンである僕は。

 はかりしれない魔力を持っている。

 しかし体の一部を失うと、その分だけ魔力を失う。

 なのえ右上を全て失えばそれに回復するためにさらに魔力が減ってしまう。


「ふ、どうやら、奥の手ってやつですね」


「そうだかぁ、おめーは確かにへんてこりんな魔法を使う。でもこの闘気の力にはかつ事が出来ない」


「ならその闘気に勝ったら。僕の仲間になりますか」


「ああ、なってやるさ」


「では本気を出させていただきます」


 僕はにかりと笑った。

 その瞬間、僕の右足と左足に根が張り出した。

 しかし地面がないので根っこはがっちりとはいかない。

 だがその根っこははつぃなく伸び、リングを覆ってしまった。


 

「さぁかかってきなさい、その闘気とやらで僕を吹き飛ばせばあなたの勝ち、僕がもてば、僕の勝ちです」

「ふ、いいだぁあ、やって、やろうじゃんよおおおお」


 闘気の力をまとったバリフィンガーはまっすぐこちらに突っ込んでくる。

 その時不思議な事が起きた。

 バリフィンガーの意識がこちらに入ってくる。

 どうやら僕の根っこの影響でバリフィンガーの気持ちが伝わってくるようだ。


 バリフィンガーはいつも岩の上で寝ていた。

 空を見上げる彼には、誰も守るものなどなかった。

 ドワーフの民を守るのはその力に報いる為だった。

 だけど本当に守りたい家族は人間に殺された。

 バリフィンガーは生きる理由を失い、ただ人間を殺していたら国王に止められた。


 国王はバリフィンガーの為に涙を流し。

 バリフィンガーは何が足りないのか分からないという虚無を味わった。


 バリフィンガーはドワーフ国王が大事だ。

 そしてバリフィンガーは友達が大事だ。


「なってやるよ、僕がお前の友達にいいいい」


 バリフィンガーの猪のような突撃は僕の腹に衝突した。

 腹は何重層にも木製の鎧で身に纏った。

 衝撃波は全身を伝い。

 僕の体は後ろに吹き飛ぶ事はなかった。

 その代わりバリフィンガーがその場に崩れ落ちた。


 涙を流して、それでも立ち上がる事ができないようだ。


「お見事、勝者はジュレイ殿だ」


 国王がそう叫ぶと。ドワーフ達の観客たちは無言になっていた。

 1人また1人と歓声をあげ、その歓声は2人目の英雄の誕生を祝福していた。


 僕は手を挙げる前に、目の前で2本の角の兜に包まれて顔は見えないが。

 2つの穴から無数に涙が流れている。


「バリフィンガー仲間になれ、そしてこれからもよろしく友達だ」


 バリフィンガーは無言で嗚咽を流しながら、右手を取った。


「まったくバカ息子が」


 僕はドワーフ国王の小さな呟きを聞き逃さなかったが。

 それには触れないほうがいいのだろうと思った。


 ドワーフ達にもみくちゃにされて、僕たちはドワーフ王の玉座に戻ったのだ。



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