第183話

 *


「弟子が嫁ちゃんとイチャイチャしている間に見てきてやったぞ」


 いい加減に迷惑だろうと、人の間から生えたシャラとルーを引っこ抜いた所で、屋根の上から師匠とエルザが降ってきた。


「周辺に魔族は居ないね」


「居ないー」


「俺は魔力が枯渇してたんですが?」


 お前の代わりに仕事をしてやったんだぞ、と言いたげな二人に抗議する。


「まだまだ気合いが足りないね」


 俺の抗議は気合いの一言で片付けられる。

 気合いで魔力は回復しない、が師匠の場合はフン!と気合いを入れたら回復しそうなので何も言わないでおく。


「それはそうと」


 師匠がシャラの方を向く。


「シスターちゃんはどう思う? 魔族はまだ居ると思う?」


「へ?私ですか?」


 シャラが、まだ鼻に詰まっている気がするとボヤキながら、ズビズビと鼻を鳴らし首を傾げる。


「えっと、あーそうですね。もう居ないと思います、声さんも居ないって言ってますし」


 恐ろしいことに凄まじい説得力がある。

 何というか正真正銘の理屈抜きの説得力だ。

 正気のまま狂気と肩を組んでるようなシャラに若干の恐怖すら感じる。


「ありがとうございます、シャラ」


 俺がシャラさんやべぇと恐れていると、エリカが慈しむような笑みを浮かべて礼を言う。

 ルーがシャーちゃん凄いねと無邪気に笑う。

 流石、エリカとその親友である、懐の深さが人とは違う。


 まぁ俺はの懐はエリカ専用だが。

 俺がそっとシャラから視線を逸らすと、人混みの向こうから辺境伯の大声が聞こえてくる。

 どうやら移動を開始するようだ。


 避難民達がゆっくりと動き出す。

 ふむ、そろそろ潮時だな。


「それじゃあ俺達も撤退、もとい家に帰るか」


 このままココにいれば辺境伯にとっ捕まる。

 せめて首は洗ってからご対面したい。


「まぁそうですね。わたくし達がここにいても出来る事はないでしょうし」


「そうですね、怪我人なんかは教会ウチの人間が面倒を見てくれてますし」


 シャラが帰りましょう、と言うがお前が帰るのは教会だろうと思う。


「ダリル君はどうするの?」


 遠くから聞こえてくるダリルの叫び声にルーが首を傾げながら誰に問うでもなく問う。


「ほっといて大丈夫だろ」


 ルーが胡乱げな目で見てくる。

 なんだ?母国の王子を放置して大丈夫か?って顔か?


「ダリルなら大丈夫だろうよ」


 アレはまぁ、馬鹿で大ポカを偶にやらかすし、技名を叫ぶような馬鹿だか無能じゃない。

 俺が肩を竦めると、何故かエリカの視線を感じる。

 なんだろう? 視線で問い返すとエリカが何でも無いと首を振る。


「話は纏まったかい?」


 師匠が話を纏めに入る。


「それじゃぁ……」


 俺は移動する避難民と冒険者と教会の人間、それに護衛の騎士でごった返す通りを見る。


「屋根使って帰るか」


 シャラがゲンナリした顔でまた屋根かぁとぼやく。

 またって何だろう?

 首を傾げながら俺達は手早く屋根に登る。


 通りからダリルが俺を呼ぶ叫びが聞こえてくるが無視する。だってその後に辺境伯の声まで聞こえてきたんだもの。

 俺は去り際に辺境伯に、もう魔族は居ないようだと伝えると逃げるようにその場を去った。


「必ず話を付けに行くからなロングダガぁ!」


 辺境伯の声は超怖かった。


***あとがき***

どうしても、キリ良く区切れるのがここしかなかった……。

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