第178話 その手に短剣を2
*
「やっぱりこの街じゃ聖域が近すぎる」
半壊したままの頭が人の言葉を話す。
注意深く慎重に、距離をとっていた騎士達がどよめく。
欠けた頭部を
見えない人間には、鼻から上がグシャッてる人間が話しているように見えるだろう。
「残念だわ、ソルンツァリ。挨拶代わりにちょっとその首を
「随分と口調が変わったな、とびきりの美少女はどうした?」
男の声は質も、話し方も変わっている。
声に少女の面影はなく、年齢不詳というか、ともすれば性別も迷う。
頭が半壊しても平然と立ち上がる存在に求めるのは間違っているが、一貫性がなさ過ぎる。
「シン」
エリカが真剣な声音で話しかけてくる。
「アレは男ですよ?」
「わたしソルンツァリのそういうトコきらぁーい」
それが開始の合図だった。
瞬間、男の周囲で黒い魔力が奇妙な走り方をする。
今まで見たこと無い魔力の動きだった。
どんな魔法が飛んでくるのかと警戒する。
空気が歪むのが分かった。
「まさか、時空間魔法?」
それが何かを言い当てたのはエリカだった。
流石、学園でもトップクラスの成績だった人だ。
エリカの言葉が正解だった事を、俺は空間から溢れ出す魔族の群れで知った。
人間が使って良い魔法じゃないぞ。
大量に湧いて出た魔族の影に、男の姿が見えなくなって焦る。
「逃げる気か!?」
まさかこのタイミングで?
そんなワケがないと思いつつも可能性を排除できない。
突然あらわれた魔族の群れに、一瞬で混乱に包まれる噴水前広場で判断に迷う。
怪我をして動けない避難住民、それを守ろうとする冒険者達。
どうする?
助けに回るべきか?
「秩序ある者は我に続け!」
迷いを断ち切ったのは辺境伯の言葉だった。
魔族の群れに突撃する辺境伯、当然ながらそれを見過ごす騎士達ではない。
ふと背中に熱を感じる。
エリカの手があった。
「アレがなんであれ」
エリカが周囲を見回す。
敵を探す目ではなく、何かを確認するように。
つられて見回す。
騎士達の先頭に立って魔族に斬りかかる辺境伯、戦う力なぞ持たないのに冒険者と肩を並べてケツから声だせと叫ぶギルド職員のラナ。
シャラがどこからか持ってきた角材を振り回し、司教が魔族にヘッドロックを
なんだこの馬鹿みたいな光景は?
馬鹿だらけじゃないか。
エリカが笑う。
「わたくし、この街が気に入っておりますの」
「俺もだよ、エリカ」
それだけでエリカとわかり合った気がした。
身勝手な妄想だ、子供じみた願望だ。
自分が好きな人達に、自分も好かれていたい。
自分が助けたいと思う人達に、自分も助けられたい。
頼られたい人達に、自分も頼りたい。
それを許して欲しい。
随分と子供っぽい。
「信じると言うのも、良いものですよ?」
俺が子供っぽい願いだと思ったそれを、エリカは信じる事だと言った。
その言葉を、ガン! という鉄と鉄を打ち合わせた音が掻き消す。
「ソルンツァリ!」
叫ぶ男の剣を平然と剣で受けながらエリカが言う。
「申し訳ないのですが、ダンスのパートナーは決めていますの」
俺は男の横っ腹を斜め四十五度に蹴り上げた。
順番は守れよ、この……えっと……この……クソ野郎!
***あとがき***
いつもコメント、イイね等、ありがとうございます。
現在、書籍化の作業をしておりまして、ちょっとばかし更新が不定期になるかもしれません。
できれば今章の終わりまでは、維持したいですが。
あとこれ?投稿できるんでしょうか?
コメントの返信が悉く失敗に終わって、今日の更新を諦めようかと思ったのですが。
これで失敗してたら今日は諦めます。
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