第166話 馬と鹿の蹄は固い4

 *


 はい問題です、身体強化と回復魔法しかまともに使えない人間が、狭い下水道で戦うとどうなるでしょうか?

 答え、迂闊に動いたら壁に激突ペチャンになるので足を止めて殴り合う事になります。


「こら!王子へばんな! 焼け!」


 俺は脇に触手を挟むように抱え、目の前のなんか毛の無い鼠みたいな魔族の首を刎ね、ついでに上半身を切り飛ばし背後に蠢く魔族の群れに蹴り飛ばす。

 蹴りの反動で飛び退いた隙間に別の魔族が割り込んでくるが、何かする前に四分割する。


 頭は割れなかったので、四分割程度では回復されるだろうが時間は稼げる。

 出来れば細切れにしたいがそれをしてるとボコボコにされる。


 なのでトドメは王子の役目だ。


「この程度でへばらんわ!」


 三体目で早々に数える無駄をさとったのでもう数えていない――王子が俺がバラした何体目かの魔族を炎で焼く。

 エリカほどの威力は無いがなかなかである。


 俺が前衛、王子が後衛。

 即席の割には上手くやれていると思う。


 だが。


「通すか!」


 如何せん相手の数が多い。

 俺をスルーして王子に向かおうとする魔族を、横から伸びてくる触手を避けながら切り飛ばす。


 代償は脇腹への直撃である。

 衝撃と痛みで変な声が出そうになる。


 だが助かった。

 こいつは弱い方の魔族だ。


 戦いだして直ぐに分かった。

 魔族の強さがまちまちだと。


 俺の脇腹を人のような五指の手で握る魔族の腕を切り飛ばす。

 馬に良く似た顔に何故腕が切れたのか?みたいな感情が浮かんだ気がした。


 脇腹を掴んで離さない腕にバランスを崩されながらも体を半回転させてその顔に回し蹴りを入れる。


 頭が風船のように破裂する。


 返り血が目に入って痛い、が涙は気合いで止める。

 男の子は血が目に入ったぐらいでは泣かない。


「シン!」


 赤く染まった視界の中で魔力が揺らめくのが見える。

 飛び退いた瞬間に爆発と共に下水道の幅一杯の炎の壁が現れる。


「大丈夫か?」


 飛び退いた先の王子が問いかけてくる。

 良い判断だ、時間稼ぎにしかならないが一息付ける。


 俺は折れてズレた肋骨を服の上から掴み、正しい位置に戻してから回復魔法をかける。

 微々たるものだが魔力の節約になる。


 何故か王子がそんな俺を見て変な顔をする。

 なんだ?なんか文句でもあんのか?


「しかし、威勢良く突っ込んだものの、この数は流石に嫌気が差す」


 王子が俺の視線を無視して言う。

 お?なんだ? 弱音か?


 少なくともコイツらは頭を潰したら死ぬから有情うじょうだぞ。

 竜は首がない状態で殺しに来るからな?


 それとも先の見えない戦いに心が折れたか?


「まあしかし負ける気はせぬな」


「オッケー王子、道理だ」


 折れてないなら大丈夫だ。

 俺は炎壁を無視して伸びてきた触手を剣で打ち払いながら言う。


「冒険者の戦い方を見せてやるよ」


 俺は胸に吊していた短剣を王子に放って投げ渡し、炎壁に突っ込んだ。


 *


 冒険者の戦い方を見せてやるぜ!

 と言ったもののやる事は変わらない。


 こちとら狭い下水道のせいで全力出そう物なら延々と壁に激突してセルフ耐久試験なのだ。

 だったら壁ペチャンにならないように慎重に歩きながら斬りまくるしかないのである。


 冒険者の戦い方?

 簡単だ。


 仲間を信じるんだよ。

 狭い場所ではとことん不利な俺のたった一つの冴えた解決方法である。


「おぉおお!?シン! ちょっとこっちに漏れてきておるぞ!?」


 さっきよりもずっと近い背後で、王子が焦った声を上げる。


「短剣渡しただろ! 背中を任せてやるから頑張れ!」


 俺は王子の魔法をあてにせず、目に付く魔族を片っ端から細切れにしていく。

 当然被弾は増える。

 冴えた解決方法にも多少はデメリットはある物だ。


 が、王子をカバーする為に動き回る必要がないので身体強化を割とぶん回せる。

 仲間を信じるって素晴らしい。


 俺は左右から挟み込むように襲いかかってきた魔族二体を細切れにし。

 正面から仲間の死体を踏みつけて飛び込んできた魔族の拳を頭突きで潰す。


「任されるのは嬉しくあるが! シン! 知っておるか!? 王族は戦うようには出来ておらんのだぞ!」


 王子はそう言うが、ちゃんと戦えている。

 強そうなのはこっちで受け持っているが、短剣一本でやり合えている。


 たまにやらかすのが玉にきずだが、戦闘面でも優秀は優秀なのだろう。

 エリカを追放している時点で我が国の将来が心配でならないが、案外どうにかなるかもしれない。


「待て待て!二体同時は無理だぞ!?」


「我が儘な男は嫌われるぞ?」


 俺は……なんだこれ? カエル?いや、トカゲか?みたいな顔をした魔族を棍棒代わりに振り回しながら言う。


「貴様にはこれが我が儘に見えるのか!?ってうぉおお短剣が折れた! シン!折れたぞ!」


 残念ながら俺には背中に目は付いてない。

 王子の抗議を無視して俺は前進を続けた。


***あとがき***

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