第124話 胃痛辺境伯のオープニングセレモニー3
*
昼食を取り終えた俺達は、さっそく本日の用事を済ませに冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドの扉を開ける。
昼間なので中は静かだった。
冒険者の姿は数える程、かわりに依頼を出しに来ただろう人間の姿が目立つ。
初老の商人らしき男性と話していたギルド職員の一人が俺に気が付き、右手を目立たぬように二度振る。
なんだ?と思いながらもカウンターの方へと歩いて行くと奥から悲鳴が聞こえてくる。
何事かと周囲の人間の視線がカウンター奥へと集まる中、見知ったギルド職員のラナが両脇を二人のギルド職員に抱えられて引き摺られ出てくる。
「やめろー!やっとフォレストドラゴン関係の諸々が片付いた所なんだぞ!やめてー!私にこれ以上の残業は無理ー!」
歯を剥き出し叫ぶラナの姿に思わずエリカと目を合わせる。
まぁまぁお金がイッパイ貰えるじゃないですかー。
両脇を抱える職員二人がにこやかに言う。
「金は使える時間があって始めて意味があるんだよ!」
ラナのその言葉は二人の職員によって完全に黙殺される。
押し出されるように背中を押されたラナがたたらを踏みながら俺達の目の前、カウンターに付く。
両手をカウンターに付き体勢を支えるラナと視線が合う。
こいつも大変だなぁ。
「誰のせいだと思ってるんです!? ギルドへようこそ畜生!本日のご用は何で御座いましょうロングダガー様?」
何故か心を読まれた。
「ギルド職員が冒険者に畜生はどうなんだ?」
「ギルド職員と冒険者の関係なんて刺すか刺されるかなんですよ」
殺伐とした冒険者ギルドだなぁ。
と思ったら背後でソワソワとした空気を感じる。
「そうだったんですね」
エリカだった。
「やはり冒険者を相手にするギルド職員はそれなりの、いえ平均以上の腕前の者でなければいけないというわけですね」
「いえ、冗談です奥様」
ラナが若干目をキラキラさせたエリカの誤解を切り捨てる。
即断即決、中々にやるな、ラナ。
小声で“奥様もロングダガーだった”と言ってるのは、どういう意味だと問いたくなるがスルーする。
「えぇまぁ、冗談はさておき。本当に冗談ですからね奥様?」
ラナが念の為とエリカに釘を刺しながら問うてくる。
「それで本日はどのようなご用件で? 仮面は無いみたいなのでまともな物である事を望みますが」
「魔石の買い取りだよ、ただの」
そう言って俺は黒化したジュエルヘッドドラゴンの魔石をカウンターに置く。
「そういうとこですよ!?」
ラナがカウンターを拳で叩く。
「ええ!ええ!知ってますとも、知っていますとも!“身分不相応のロングダガー”様が黒化したジュエルヘッドドラゴンを討伐したと!」
ええ!(1ヒット)ええ!(2ヒット)知ってますとも(3ヒット)、更にカウンターがラナに追撃される。
「だからってそれを持ってきます?冒険者ギルドに?私はてっきり道中で狩った魔物の魔石かと思いましたよ!?ありがとう!」
「どういたしまして?」
お礼を言われたのでとりあえずそう返事する。
「ひーにーくー! 皮肉ですよ!ロングダガーを名乗る人間には冗談も皮肉も通じないとか新たな伝説でも作る気ですか?」
そんな伝説を作る気は無いぞ、と思いつつ周囲から向けられる
何故かギルド内にいる全員から、何なんだコイツみたいな目で見られていた。
おかしい、討伐した魔物の魔石を冒険者ギルドに買い取って貰うというのは当たり前の事のはずだ。
ヘカタイの冒険者ギルドの制度として、その時に担当したギルド職員が売買の手続き等をする、という事なのでラナには苦労をかけるかもしれないが。
それでもギルド内の全員からこんな目で見られるような事ではないはずだ。
「えぇ?本気ですかその顔」
ラナが俺の顔を見て呆れる。
「この見ただけで分かるヤバい魔石を冒険者ギルドが買い取れるわけないでしょ」
ラナの言葉に首を傾げる。
俺には普通の、すごく強い魔物の魔石にしか見えない。
確かに見ただけで強力な魔物の物だと分かる魔石というのは珍しいが、ギルドで買い取れない等という話は聞いた事が無い。
そんな事になったらファルタールでは高ランク冒険者は生きていけない、主に師匠とかだが。
うわ、本気で分かってない。
ラナが呻く。
「あーはい、ご説明させて頂きます」
ラナは特大の頭痛を堪えるような顔をして言った。
*
所変われば常識も変わる。
そんな当たり前の事を実感したのがここ数日だったが。
俺は再びその事を実感した。
冒険者ギルド職員、ラナが俺に説明してくれた事を簡単に要約すると。
それだけ強力な魔石であれば、街を包む結界を張るための結界器に加工できます。
新たに街が作れる、そんな国家戦略に
成る程、わからん。
というのが正直な感想だった。
だってそうだろ? 確かに黒化した竜ほどの魔石ではないものの、これに近いレベルの魔石ならファルタールではそこまで珍しくないのだ。
具体的に言うと半年に一度は必ず師匠か他の誰かがギルドに持ち込む程度の物なのだ。
そんな物が国家戦略に係わると言われても正直ピンとこない。
とラナに言ったら、一旦は
街が増えればその分国が栄える、というのは当然の話でしょう。
とはエリカの言。
聞けばファルタールではギルドが買い取ったそういう魔石は国が買い上げているらしい。
重要な外交資源であるとの事。
へぇっと感心していたら、貴方も貴族でしょう、とエリカに軽く怒られた。
とかくラナの説明によると。
魔境のおかげで魔石資源が豊富なオルクラが無思慮にこのレベルの魔石を取り扱えば、最悪は他国との戦争になります。
らしい。
貧乏子爵家の次男坊からすると遠い国の話のようだ。隣国だが。
「ですのでこの魔石は冒険者ギルドでは買い取りできません」
じゃぁどうすれば? という顔に浮かべた疑問はすぐに解決した。
「ご要望であればギルドの方から辺境伯様へご連絡出来ますが、いかが致しますか?」
すっかりギルド職員らしい顔に戻ったラナが訊いてくる。
最初からそれを言ってくれれば、とは思いつつも口にはしない。
口にしたら何か怒られそうな気がする。
「承りました」
ギルド規定とオルクラの法により魔石をお預かりする事になります。
ラナの説明を聞きながら五枚の書類に署名していく。
ギルド職員三人に運ばれてきたやたらと頑丈そうな箱に魔石が保管される。
厳重さに違和感を感じてしまうのは、ファルタールの常識があるせいだろう。
「確かに当ギルドにて魔石をお預かり致しました」
他に何かご用はおありでしょうか?
ラナの質問に俺は頷く。
ジュエルヘッドドラゴンの魔石は確かにギルドに来た理由の一つだが、本命の理由は別にある。
まだ何かあるのかよ、あからさまにゲンナリするラナに俺は言う。
「俺達の冒険者ランクについてだ」
俺は周れ右して逃げようとするラナの襟首を掴んだ。
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