追放された侯爵令嬢と行く冒険者生活短編

短編5 ロングダガー狩猟日記(ロックニードルウルフ)


「ふっざけんなよ!」


 人の腰ほどまでの下生えを蹴り抜くように飛び越えながら、珍しくシン・ロングダガーが焦っている様子をジェニファーリン・パンタイルは興味深げに観察していた。

 視界はシンが走る動きに併せて上下にせわしなく揺れる上に、その走るシンに荷物のように脇に抱えられながらだったが。


 興味深い物は興味深いのだ。

 あと荷物のように運ばれるという経験も中々なかなかに興味深い。


「ふむ、君という人間も焦る事があるのだな」


「この状況で冷静なふりは止めろジェン!」


 足下に向かって飛んできた子供の頭ほどの岩を横に飛び避けながらシンが叫ぶ。

 ふむふむ、やはり我が友だ冷静なふりだとバレている。


 シンに自分の上っ面が通用しない事に密かな満足感を得る。


「ちなみに私の胸が高鳴っているのは友人に荷物のごとき扱いを受けているという非日常に対する背徳的な感情から来る物であって、決してロックニードルウルフの群れに追いかけられているからではないからな?」


 勘違いしてくれるなよ? という熱い気持ち乗せて言ったらぶん回された。

 正確には左右から挟み込むように飛びかかってきた二体のロックニードルウルフをシンが身体からだを一回転させながら斬り払った為だが、全力の身体強化中であったにも係わらずジェニファーリンには何が起きたか殆ど見えなかった。


 流石さすがシン・ロングダガーである。

 びっくりする程の貧乏子爵家の次男坊であり、貴族のくせに冒険者でもある変人。


 普段はパンタイルの鑑定スキルをもってしても平凡極まる人間に見えるが、ひとたび身体強化を使えば“蓋は外れ”その結果は怪物かと見紛みまごう物となる。

 商売と投資と浪費の天才、パンタイル男爵家において百年に一度のパンタイルと呼ばれるジェニファーリン・パンタイルにとっては友人でもあり“投資対象”でもある。


 そして今回の場合はシンの雇い主でもあった。


「オッケー分かったジェンが冷静じゃないのが良く分かった」


 人を脇に抱えて片手で戦う不利を感じさせない揺るぎない自信。焦ってはいるが不安ではないのだ。

 余人であれば、その年相応な見た目とは不相応な自信に溢れた態度に違和感を感じるだろう。


 だがパンタイルの黄金の瞳は見誤らない。

 彼のそれは、ただ本当に不安を感じていないからだと。


「怖いなら目を閉じてろ」


 すぐに終わらせる。

 ハッハッハ、格好いい事を言うじゃないかと、ジェニファーリンは迷わず目を閉じた。


 別に怖かったわけじゃない、単にこれ以上目を開けていたら目を回しそうなだけだった。

 目を閉じたジェニファーリンは、ああ私はいま空中に投げられたなと考えながら、いや本当に荷物扱いだなと軽く憤慨する。


 いやまぁ良いか。

 当然のように重力に引かれ落ちる。


 少なくとも地面に落とされる心配はしなくて良いのだから。

 つまりは貴重品扱いである。


 再び脇に抱えられたジェニファーリンが、自分の腕の中で自慢げに鼻から息を吐く様子に首を傾げるシンに気が付かないまま。

 ジェニファーリンは、境遇荷物扱いに満足した。


 *


 事の始まりは五日ほど前の事だ。

 王都の貴族子弟が通う学園、そこで唯一ゆいいつ進級がかる一年目の試験。


 その一度目を何とか無事にクリアしたシンが、来る長期休暇を前にエリカ・ソルンツァリの見貯めにいそしんでいる時だった。

 学園での数少ない友人であるジェニファーリン・パンタイルが声をかけてきた。


 なぜ長期休暇などがあるのかと、エリカを見れぬではないかと憤っていたシンは、その視界を遮るように立つジェニファーリンに胡乱げな視線を向けた。

 しょうもない用事だったら無視しようと思った、たとえ試験を無事に突破できたのが彼女の助力のおかげだとしてもこれだけは譲れなかった。


「我が友よ、私に雇われてみる気はないかね?」


 人の多い教室での事だったのでシンは一瞬眉をひそめたものの、誰も自分の事など注目などしておらず、まぁいいかとシンは流す。

 一時はあのパンタイルが何故に貧乏以外は歴史が長い程度しか特色が無いロングダガーの、それもその次男に何の目的があって近づくのかと注目されたものの。

 それが日常となってしまえば注目も薄れるものである。


 目前となった長期休暇の話題でザワつく教室で、わざわざシンとジェニファーリンの会話に耳を澄ます者も注目する者もいなかった。


「一応は冒険者そっちの事は秘してるつもりなんだがな」


 なのでシンの苦情も本気の物ではなかった。


「今この教室で他人の会話に耳を傾けてる奴などいないだろうね、むしろ目の前の人間の話すら聞いているか怪しい物だろうさ」


 シンの苦情を受けたジェニファーリンが皮肉気に笑いながら肩をすくめる。

 出会った頃より少し伸びた焦茶色の髪が肩に触れる。


 綺麗に切り揃えられた髪は、その艶やかさもあってシンにはヘルメットに見えた。

 以前、そう言ったら殴られたので二度と口にする気はないが。

 

 いやしかしまぁ確かにジェンの言うとおりだろうな、シンは軽く周囲を見回して思う。

 いま教室にいる連中の殆どの耳目じもくを集めているのはエリカ・ソルンツァリとその友人である光の巫女だった。


 下級貴族も上級貴族も、男どもは全員が長期休暇中にはどこそこに狩りにとか、誰それの夜会にとか、何かそれらしい会話を繰り広げてはいるが、会話として成り立っているかも怪しい。

 そしてご令嬢方はそれを憎々しげに眺めている。


 根性のある幾人かのご令嬢は、有望株に果敢なアタックをしかけているが戦果は思わしくない。

 光の巫女一人で大惨事だな、シンは対岸の火事が盛大に炎上する様に呆れる。


 きっとエリカと光の巫女が休みの間に一緒にドコソコへ行きましょう、等と口にしたのなら全員の予定が変わるんだろうな、シンはその様子を想像して心中で笑う。

 ちなみにシンも予定を変えるつもりである。


「他人の薄ら寒い独り言のぶつけ合いを眺めて無聊ぶりょうを慰めるのも悪くはないが、ちょっとばかり私に時間をくれないかな? 少なくとも言葉を受け取り刺し返すぐらいは約束しよう」


 刺し返してくるのは止めてくれ。

 そう思いながらもシン・ロングダガーは頷いた。


 要件を聞くぐらいは良いだろう、なにせ恩があるのだ。それに彼女は友人だ。

 エリカ・ソルンツァリを見るのも大事だが、まぁ友人も大事である。


 *


 というわけでシン・ロングダガーはジェニファーリン・パンタイルに雇われる事となった。

 依頼内容は護衛。


 それも護衛対象はジェニファーリン自身だと言う。

 しかも護衛はシン一人だ。


 ジェンであるならば高ランクの冒険者をいくらでも雇えるだろうに、何故に自分なのだ。

 そうジェニファーリンにシンが尋ねた所、腕より信用が必要な仕事、という答えが返ってきた。


 いや、むしろ必要なのは信頼だろうか、そううそぶくジェニファーリンにシンは商人の考える事は分からんと答えると何故か笑われた。

 そういう所が分かるのなら君を商人として雇うのだけどね、そう言うジェニファーリンの目が本気だったのでシンはその話題はそこで打ちきった。


「だけどまぁ、次は信用よりも腕で選ばせてやりたいものだよジェン」


 足りないのは重々承知しているけどな。

 護衛依頼に必要な荷物をまとめながらシンが言う。


 そんな言葉が出たのはシンの少年らしい矜持きょうじの表れであり、友人に漏らした悔しさでもあった。

 それを受け取ったジェニファーリンが大きく目を見開く。


「シン、それは――それは悪い冗談だ、本当に悪い冗談だ。少なくとも私が地獄へ行商に行く時には君以外の護衛を選ぶ事はないね、約束しよう」


 地獄へ行商に行く時は――、商人が最もその実力に信頼を置く者にだけ使う言い回しでジェニファーリンはシンの言葉を否定する。

 シンはその事を知らなかったが、それ自体をジェニファーリン・パンタイル流の下手な慰めだと受け取り苦笑する。


 弱音はよく心中で吐いているが、それを口にするとはらしくない事をしたと、シンは反省する。

 ジェンに甘えたな。


「地獄に連れて行く時は美味い飯を用意しておいてくれ」


 後は笑える冗談でもあれば最高だ。

 そう言ってシン・ロングダガーは荷物を詰め込んだ背嚢はいのうを背負った。


 信用されたというのなら、まぁ裏切るわけにはいかないよな。

 ベルトを締めつつシンは気合いを入れ直す。


 長期休暇、その初日の事だった。


 *


 ファルタール王国の王都から東に進み続ければ海に突き当たり、西に行けば兄弟国であるオルクラ王国に突き当たる。

 北に行けば巨大な山脈がありそれを超えればそこには魔境と呼ばれる地域が広がっている。

 南に行けば対岸すら見えぬ大河が横たわっている。

 必然、ファルタール王国は横に長い国となっている。

 王都を中心に東西に伸びる街道は良く整備されており、そうしなければ頭のネジが外れた商人しか来てくれないという切実な事情から一定間隔で魔物避けの魔道具が設置されている。


 魔物避けの魔道具は、魔物が好んで近づこうとしない、程度の効果しかないが。

 そこを通る人間からすると、あると無いとでは雲泥の差だった。


 何より魔物避けのある周囲では魔物が突然湧いてこない、というのが重要だった。

 ビックリする程貧乏子爵家の次男坊、シン・ロングダガーはその魔物避けの魔道具を数えながら黙々と歩いていた。


 暇だったからである。


「なぁジェン」


 暇に負けて口を開く。

 目の前を歩く焦茶色の髪の少女が前を向いたまま「なんだね我が友よ」と応える。


「馬車を使わない、というのはまあ何か事情があるものだとむが、何故に歩きなんだ? 俺もお前も身体強化を使えるだろ? 走れば良いんじゃないか?」


 百年に一度のパンタイル、産まれて始めての言葉が泣き声ではなく産まれてきた事への所感を述べる演説であっても不思議ではないと、密かにシンが思っている少女、ジェニファーリンは長い沈黙を挟んで質問を質問で返してきた。


「それは身体強化で走れば良いのでは? と問うているんだね?」


 そりゃ勿論もちろん

 そう答えるシンにジェニファーリンが溜息を吐く。


 軽く頭痛を感じる。

 平然と馬鹿な事を言ってくれるものだと。


 身体強化を長時間維持して長距離を移動する、というのは珍しい話ではない。

 珍しい話ではないが、一般的な話でもないのだ。


 一般的な常識では、それは高ランクの冒険者か厳しい訓練を積んだ騎士団の騎士がやる事だ。

 後は年がら年中、魔法の研鑽に努める教会の人間くらいか。

 

 身体強化が出来るからと、誰でも出来るのなら世の商人は馬車ではなく冒険者を雇うだろう。

 誰だ?我が友に頭のイカレタ常識を植え付けている連中は? 良いぞもっとやれ。


「残念ながら我が友よ、私は身体強化がそこまで得意ではなくてね。身体強化を長時間維持しながら走り続けるなんて芸当はできないのさ」


「ジェンならコツを掴んだらすぐに出来ると思うぞ」


 うんうん、そうかそうか、君にとっては“コツ”で到達する領域の話か我が友よ、と心中でジェニファーリンは呆れる。

 いやしかし、これでも家庭教師に冒険者のランク4程度の実力は既にあると言われている身である、シンが言うのならもしかしたら。


 とそこまで考えた所でジェニファーリンは首を横に振る。

 怪物シンの見立てを信じるようでは商人失格である、嬉しくはあるが。


 一瞬いっしゅん頬が緩みそうになるが、それ以上に生理的欲求が喜んでいる場合かと訴えてくる。

 シンに護衛を頼むと決めた時から覚悟していた瞬間が訪れた事にジェニファーリンは気合いを入れる。

 これでも貴族令嬢で、立派な乙女である。

 ジェニファーリンは振り返り言った。


「シン、我が友よ、ちょっと君の目を潰してくれないか」


 *


 その結果がコレである。

 用を足すのに人目を避けて街道脇のちょっとした森へと足を踏み入れた結果ロックニードルウルフに襲われたのだ。


 ちなみにシンが短剣を用意しながら、片目で良いのか?といてきた時には、自分で言っておきながらジェニファーリンは絶句しそうになった。

 前から思っていた事だが、コイツは自分のふところに入った奴を信用しすぎだと思う。


 いつかケツの毛まで毟られるな、そう思いつつもそんな人間のふところに入っている自分を嬉しく思ってしまう。

 ジェニファーリンは冗談である事、用を足したいだけである事をシンに伝える。


 それを聞いたシンが、視界は後ろを向いてれば良いから後は耳か、という呟きと共に止めるまもなく鼓膜を破るさまに、ジェニファーリンは今度こそ絶句させられた。

 絶句するジェニファーリンにシンが笑いながら鼓膜ぐらいは回復魔法ですぐに治せると言うが。


 お前、そういう覚悟を易々やすやすとばらまくな我が友よウェッヘッヘ、とジェニファーリンは呆れる。

 なので、ジェニファーリンとしては用を足して浄化魔法を使った所を、知らず忍び寄っていたロックニードルウルフに、そのまま喉笛を噛み砕かれていてもシンを恨みはしなかっただろう。


 おっとマズい死ぬなコレ。

 到底間に合わないと思いつつ身体強化を使おうとする自分をジェニファーリンは気に入る。大いに気に入る。


 皮肉気な笑みを浮かべて死ぬのも良いが、それはあがいた結果であるべきだ。

 最初から諦めて皮肉気な態度で死ぬのは格好が悪いではないかと、牙から逃れようと身を捻る。


 それでも迫る牙から視線を離せなかったのは、それが死の象徴であったからだ。

 迫る牙に恐怖を感じながら、可愛らしい悲鳴の一つも出ない自分に妙な誇らしさを感じる。


 だからだろう。

 目の前からロックニードルウルフの姿が消し飛び、呆れたようなシンの声に皮肉で返せたのは。


「せめて悲鳴ぐらい上げてくれよジェン」


「シンが近くに居て悲鳴を上げる程の事があったかな?」


 シンに蹴り飛ばされ、木に激突したロックニードルウルフが魔石へと変わる。


「成る程、道理だ」


 確かに道理だよ、ジェン。

 目の前で“投資対象”がその蓋を外す。


「俺の半径三メートル以内でその牙とどくと思うなよ?」


 それもまた道理だな、我が友よ。

 ジェニファーリン・パンタイルは心中で同意した。


 *


 等と格好いいことを言ったが、冒険者としてのシン・ロングダガーの判断は速かった。

 ロックニードルウルフの数が予想よりも多い事を悟ると、ジェニファーリン・パンタイルを脇に抱えて森から脱出する事にしたのだ。


 ロックニードルウルフ、冒険者ランク3、つまりはウッカリ自分の身体強化で死なない程度の実力になった冒険者であれば十分安全に倒せる程度の魔物である。

 ただしそれは一対一であるならば、という注釈が付く上にロックニードルウルフは複数で行動しているのがつねである。


 素早い四足歩行の獣であり、名前の通りに胴体と前足の付け根に生える岩のような棘を飛ばしてきたりと、連携を取られると厄介な魔物である。


「いやしかし、幾ら何でも多すぎる」


 十二体目のロックニードルウルフを斬り捨てながらシンはぼやく。

 普通は多くて六匹程度の群れだ。


 明らかに異常な数にシンは視界の悪い森からの脱出を決めた。

 気配察知のスキルが無くても、辺り一面にまだまだいるのが分かる。


「ちょっと用を足すだけでこんなのを引き当てるだなんて、ジェン。少し日頃のおこないが悪いんじゃないのか?」


「失礼な、最近はあくどい商人を幾人かカラカイ倒しただけだぞ」


 その幾人は何人だ?という益体もない言葉を飲み込む。

 足場の悪い森の中で思うように速度が出せない。


 ロックニードルウルフが真横から襲いかかってくる。

 その口につかまで剣を差し込んでから、縦に裂くように剣を自由にすると、裂いた勢いそのままに反対側へ振り抜きもう一匹の頭を潰す。


「オッケー分かった。やり過ぎたのは認めよう。ちょっと王都のお爺ちゃんお婆ちゃんが不当な値上がりに困っていたからと言って儲けが殆ど出ないようになるよう不当な廉価で販売攻勢をしかけた私が悪かった」


 返り血で顔を汚しながらジェニファーリンがどこかの誰かに対して謝る。

 ああ、これはジェニファーリン流の恐怖の誤魔化し方かと、シンは理解を示しながらも次の瞬間には「ふざけんな」と叫んだ。


 四方八方から魔力の線が自分に突き刺さる。

 足場が悪いのを承知で地面を思いっきり踏みしめ飛ぶ。


 腰ほどまでの下生えを飛び越える。

 背後で空を切った岩の棘が、想像以上に多かった事に「ふっざけんなよ」と再び叫ぶ。


 やっとで森から出られた。

 その安堵と広がる視界に余裕が生まれる。


 ジェニファーリンを振り回し、放り投げて存分に暴れて森から染み出してきたロックニードルウルフの群れを半数まで減らす。

 それでもまだ三十匹はいるだろうか?


「街道近くに出て良い数じゃないな」


 そう言いながらシンはジェニファーリンを地面に立たせる。


「私の悪徳の対価にしては少々不満だな」


 良く言う。

 シンは背嚢を降ろしながら、顔に付いた返り血を拭うクラスメートに言う。


「ちょっと荷物を見ててくれないか?雇い主殿」


 血を拭う徒労とろうに気が付いたのか、浄化魔法で散らしながらジェニファーリンが答える。


「あまり雇い主をこき使うべきではないと思うがね? 所で君の雇い主は多少は魔法に自信があるのだが、必要かな?」


 シンはその言葉に自由になった両手をロックニードルウルフを挑発するようにほぐしながら答える。


「言ったろ?ジェン」


 シンは笑う。


「すぐに終わらせるって」


 そうだね、失礼な事を言ってしまったね我が友よ。

 ジェニファーリンがそう言い終わる前にシンの姿が掻き消える。


 ジェニファーリンはただ肩をすくめた。


 *


 初日から大変な目にあった。

 というのは焚き火にあたりながら考えたジェニファーリンの正直な感想だった。


 街道沿いにもかかわらず魔物の群れが現れたのは分かってみれば単純な話で、単なる魔物避け魔道具の魔力切れだった。

 時折、そして良くある不運であった。


 勿体もったいない、とはシンの言葉だが。

 期せずして手に入った大量のロックニードルウルフの魔石を魔物避けに補充しながら進んだのは、世の商人全てがシン・ロングダガーと一緒なわけではないと思ったからだ。


 要はただの気紛れである。

 まぁそのおかげで初日から野宿だが。


 ジェニファーリンは自分と同じ貴族のはずなのに、手早く拾ってきた石で簡易なかまどを作って湯を沸かすシンを見る。

 思わず溜息が出そうになる。


 相変わらず謎な奴である、あの蓋が外れたかのような状態からは想像の付かない平凡っぷりである。

 “コレ”を見逃すとは、自分の鑑定スキルも当てにならない物だ。


 テキパキと湯を沸かしスープを作り、更には茶までれてくれる怪物シンにジェニファーリンは礼を言う。

 野宿であってもテントか馬車の中、出てくる食事もずっと美味い物がつねという身分だ。


 だがそこには味の薄いスープと不味い茶を煎れてくれる怪物はいない。

 両手で木製のマグを持ち茶を啜る。


不味まずいなシン」


既知きちの事実だよジェン」


「おぉ我が友よ、私は悲しいぞ。そんな既知の不味い茶を友からふるわれるとは。今日、私はそんな悲しい扱いを受けるような非道をおこなっただろうか?」


「非道の結果が今日にまとまった結果、俺達は初日から野宿をしている気がするわけだが?」


 焚き火に枝を足しながらシンが言う。


「苦しむお爺ちゃんお婆ちゃんは捨て置けないからね。多少の利益が吹き飛ぶ程度の非道は笑って受け流して欲しい物だね」


 ジェニファーリンは何か言いたげな顔で焚き火を見つめるシンを見て嬉しくなる。

 おっとコレは私を褒めるべきか悩んでいる顔だね?我が友よ。


 貴族社会で育つと精神が老けるのが速くなるとはよく言うが。

 友と囲む焚き火が楽しいとは我ながら随分と子供っぽいではないか、ジェニファーリンは苦笑しながらシンの心中の決着を待つ。


「不味い茶のおかわりは?」


 シンは褒めるべきかという悩みを、不味いお茶のおかわりがいるかと尋ねる事で心中に決着を付けたようだ。


「頂こう」


 ジェニファーリンはマグを差しだし、その決着を受け取る。

 まいったね、これは参った。


 これから先、不味い茶が恋しくなったらどうしてくれるのだ。

 ジェニファーリン・パンタイルはお茶を飲みながらそんな事を考えた。


***あとがき***

恒例の時間稼ぎの短編です。

前回は冒険者としてのシンを書けなかったので書いてみようと思ったのですが。

ジェニファーリンも出したい、という欲望がどうしても抑えきれず

だったらジェニファーリンが依頼を出せば良いじゃない、という閃きでこの短編は出来ています。

正直に言いますと、今回の短編はパンツです。

つまりはプロット無しという意味です。

前回の短編もかなりパンツでしたが、今回ほど頭真っ白な状態では書いてません。

現状ではオチすら考えていません。

嵐逆巻く夜の海にパンツ一丁です。

既に遭難しそうです。誰か助けて!

ジェニファーリンの依頼の内容とは?とか煽ったら、むしろ俺が聞きたいってなるくらいです。


こんな作者ですが、皆様の良いね、コメントは毎度、嵐逆巻く夜の海で頼りになる灯台の光となっています。

いやむしろ、船を進める燃料でしょうか?

とかく感謝しております。


現在、カクヨムコンに参加しております。

評価、フォローして頂けると、作者大変喜びます。


短編は1,2週間に一度は更新できたらなぁ……できたらなぁ。

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