第103話 貧乏子爵家次男は瞳を追う4

 *


 ギルド長カルバヌスが勘違いした原因は二つある。

 一つはジョン・パルクールから俺の事を聞いていた事。


 もう一つは、その聞いていた推定俺によってジュエルヘッドドラゴンが想定よりも三日ほど早く出現させられた上に黒化。

 そこへ本来ならファルタールにいるはずの“串刺しエルザ”によって黒化ジュエルヘッドドラゴンが追い払われたと聞かされる。


 師匠からすれば風評被害も甚だしいが。

 カルバヌスからすると、何とも都合が良すぎるタイミングに見えたようだ。


 年がら年中、強い魔物を捜し回っていると有名な“親切なバルバラ”の弟子二人がジュエルヘッドドラゴンを出現させて。

 何かしらの方法でもって黒化させた。


 事の真偽はさておき。

 実にありそうな話ではある。


「では本当にこの件に“親切なバルバラ”は関係ないし、本人もこの街にはいないのだな?」


 間違いであってくれと、願うような声でカルバヌスが念を押すように問うてくる。

 師匠が仕組んだわけじゃない、というのはカルバヌスにとってはマズい事らしい。


 正直、まったく何一つ証拠などないのに魔物を意図して黒化させようとしたと、疑われる師匠が可哀想だが。

 似たような事をやらかしている前科があるのでカルバヌスを責める気にはならない。


 あの時は大変だったなぁと、師匠が封印されていた魔物を狩りに行った時の事を思い出して視線が遠くなる。

 俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、カルバヌスが絞り出すような声で言う。


「ではいったい誰があの竜を倒すのだね」


 それは質問というより、途方に暮れて出た言葉のようだった。


 *


 だから俺が倒すつもりだ、という言葉をカルバヌスは鼻で笑いこそしなかったが信じなかった。

 まぁ気持ちは分かる、ファルタールでもランク4だったのだ。


 “親切なバルバラ”の弟子という下駄があっても普通は信じないだろう。

 俺としては信じようと信じまいと、どちらでも良かったが。


 何せやる事は変わらない。

 それにしてもカルバヌスの心配が分からない。


「まあ、俺が倒せなかったとしても、倒すが、最悪でもあと二日で消えるんだろ? 誰が倒すのかと心配するような事か?」


 半ば独り言に近かったが、カルバヌスは俺の疑問に対してこう答えた。


「アレはもう森にはいない」


 俺は突然、俺の宝石が行方不明になっている事を告げられた。


 *


 冒険者ギルドには巨大な情報網がある。

 全てではないにしろ、各国の冒険者ギルドとも連携し収拾、構築された膨大な情報は時として国家の機密をも暴く。


 時には国家が知らないような事まで知っている。

 例えば今のように。


 脅すつもりはないようだが、脅すような重い口調になってしまいながらもカルバヌスは説明してくれた。


 冒険者ギルドが集めた情報の中にこんな物があったそうだ。

 黒化した魔物がその特性を変化させると。


 例が少なすぎるので真偽不詳ではあるが、今回はその特性がハッキリしているジュエルヘッドドラゴンである為に、その真偽不詳の情報がおそらく正しいだろうというのが分かったのである。


 つまり、本来なら愚者の森から離れないジュエルヘッドドラゴンは何処かへ行き。

 そして三日で消えるというのも今や変わっているだろうと考えるのが妥当である、という事だ。


 更に、とカルバヌスが重々しく言葉を続ける。

 未確認ながら黒化した魔物は時間が経つにつれてその強さを増していくという話もある。


 これも真偽不明の噂のようなものだがな、と言うカルバヌスの言葉に俺はそれは真実だと思う。

 思うというよりに落ちたと言った方が正しい。


 竜種のような強力な魔物の黒化は――今ではもう認めるが――ファルタールのような一寸ちょっとオカシイ国であっても騎士団が動くような事態なのだ。

 それなのに俺は黒化したジュエルヘッドドラゴンに勝てると思ったのだ。


 最近ちょっと強くなったな、と思う俺だが。

 流石に騎士団と一人でタメを張れる等とまでは自惚れられない。


 ちなみにファルタール王国の第一騎士団は、師匠がアイツらと戦ってみたい、と言うような連中だ。

 師匠の頭がオカシイのは置いておくとしても、そう言わせる騎士団も相当である。


 黒化したジュエルヘッドドラゴンと戦った実感としては勝てる、だったが。

 時間が経てば強くなるというのなら話は変わる。


「よし、やっぱり今から狩りに行こう」


「話を聞いていたのかね!?」


 考えをまとめた俺がそう言うと、カルバヌスが声を荒げ叫んだ。

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