第95話 貧乏子爵家次男は瞳を探す17
*
「俺はディグリスだ」
落ち着いた所で頬のこけた男から自己紹介される。
流れで禿頭と有能さんが続き。
困った俺は悩んだ末に「どうも仮面の人です」と挨拶するとマジかよみたいな目で見られた。
まぁ仮面付けてる時点で今更かぁ、とは有能さんの談。一体何が今更なのだろうか?
頬のこけた男、ディグリスの足を見つけたのは髭面ことドリムだった。
ドリムは喜び飛び跳ねながら俺に駆け寄ってきた所を有能さんに捕まり、ゴリゴリに説教され。
ディグリスと俺がそれを見て爆笑した所を禿頭の男ホウランに頭をはたかれ。
ドリムが有能さんことマリシアに何か余計な事を言ったのか、殴り飛ばされた先で吹っ飛んだ足を見つけたのだった。
見つかったディグリスの足は膝から下のはずだが、残っていたのは足首から下だけだったので、ディグリスは足をくっつける時にはなかなか愉快な絶叫を上げる事となり、今度はホウランとドリムがそれを笑った。
綺麗に切り飛ばされていたり、グチャグチャだろうと繋がってさへいればそこまで痛くないのだが、完全に無くなっていたり、欠損部位が大きかったり綺麗じゃない場合回復魔法は恐ろしく痛い。
だからディグリスが叫んでいるのは俺の回復魔法が下手だからではない。
人にかけるのが苦手なだけで、下手ではないのだと俺は言いたい。
恨みがましい視線を飛ばしてくるディグリスにそう言い訳すると。
「教会へのお布施が浮いたと思えば安いもんよ」
そうディグリスはやせ我慢の顔で言い、続いてズボンを破いた事を嫁さんに叱られると顔を青くして凹みだした。
そんなディグリスと彼を慰めるホウランに苦笑を返しながら、治療を終えた俺が立ち上がると周りにいた冒険者達がなぜか一斉に俺を見てくる。
全員が何故か何かを期待した視線を送ってくる。
あーうん、そうだな。
こういう時はどうするんだったかな?
師匠とその友人達の話を思い出す。
ああ、そうだ確かこうするんだったかな?
俺は握りこぶしをつくった右腕を掲げる。
“吹かして、やりきってみせた時にはこう言えばいいのさ”
俺は大きく息を吸い込む。
「やってやったぜ!」
仮面をしていて良かったと俺は思った。
たぶん顔は恥ずかしくて赤くなっていただろう、これだから脳筋族は駄目なのだ。
人をストレートに褒めすぎるのだから。
俺の声を合図に口々に俺達を褒め称える声に俺はそんな事を思った。
*
髭面ことドリムが再び有能さんに捕まり説教されている所に近づく。
どうも実力も無いのにドリムが逃げなかった事に対して有能さん――マリシアは大層怒っているらしい。
ジュエルヘッドバニーに対してすら苦労していたしこれで分かっただろうから、冒険者など諦めて元の大工にでも戻れば良いとまで言っていた。
それに対してのドリムの返答は傑作だった。
竜と戦うマリシアを見て冒険者になったのは間違いじゃないと確信した、これからもよろしく頼むよ相棒、などと答えたのだ。
ドリムの背後で思わずガッツポーズしたら、割と本気の殺意がこもった視線がマリシアから飛んできたが、照れて真っ赤な顔でそんな視線を飛ばされても怖くない。
その後の二人の遣り取りで分かった事だが、大工だったドリムがマリシアに魔物から助けられた事をきっかけに冒険者になり、マリシアに相棒になってくれと猛アタックをしかけ。
マリシアとしては自分がきっかけであるという妙な責任感でもって相棒というよりは師匠のような感覚で今に至るらしい。
ドリムは大工としては有能らしく、マリシアからはしきりに冒険者は止めて大工に戻れと
ここ一年ほどの話であるらしいので、たった一年でまがりなりにもジュエルヘッドバニーと素手で戦えているドリムを考えると。
そうは言いつつもマリシアはかなり真面目に彼を鍛えているし、学ぶドリムはかなりの本気だ。
面白い二人だな、と俺が言うと。
「仮面を砕くぞ仮面の人」
とマリシアに脅され。
「俺の相棒は最高よっ」
とドリムが自慢し彼女を再び赤面させていた。
そして俺はそんな二人に思わず笑ってしまった。
――そう、だからだ。
俺は、つまり、だから、油断していたのだ。
そう言えば宝石はコイツの中にでも埋まってるのかい? とドリムが結晶化したジュエルヘッドドラゴンに近づいた時。
ああ、こいつはジュエルヘッドと呼ばれていてもウサギの様に砂のような魔石にならないのだな、と考えていた俺は。
その間抜けさのツケをしこたま払う事となるのだ。
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