第93話 貧乏子爵家次男は瞳を探す15
*
たまに勘違いされるが、身体強化は物理法則を(思った以上には)無視したりしない。
つまりはデカくて重たい物が真正面から突っ込んできたら普通に軽い俺は吹っ飛ばされる。
馬車三台ほどの大きさの竜が真正面から突っ込んできた場合、吹っ飛ばされない為にはその衝撃をどこかに逃がしてやらないといけない。
俺はその術をランク1の時にシールドボアに散々っぱら吹っ飛ばされて学んだ。
つまりは地面を使え。
俺は昔から理論派なのだ。
衝角のつもりなのか
それを真正面から受け止めようとする自分を笑ってしまう。
オーガナイトの拳にも破れなかった身体強化が通った装備は今回もその役目を
だが衝撃はそれを突き抜け俺の肺を潰し、俺の喉を不自然に鳴らし、逃がした先の地面は陥没した。
今回は骨は折れなかったのだから、前よりマシだな。
回復は後回しだ。
二つの魔法陣に魔力を注ぎ込む。
明らかに制御不能な力も今は頼もしい。
なにせ細かい事は考えなくて良いのだから。
俺は言葉以外の何かを叫びながらジュエルヘッドドラゴンを持ち上げ投げ捨てた。
回復魔法で治した肺が息を吐く。
一瞬自分の呼気に蒼い炎が混ざった気がしたが、これはエリカから離れすぎてちょっと幻でも見えるようになってきたのだろうか?
いやエリカなら赤い炎だな。
投げ捨てられた衝撃と自重によるダメージでジュエルヘッドドラゴンが地面で痙攣する。
首を落とされても再生する竜種相手だと忘れがちだが、魔物も魔石に変わる前は生物である。
さぞかし全身苦しかろう、内臓はぐちゃぐちゃか?
さて追撃だと俺が剣を引き抜くのと同時に、何人もの冒険者が森から出てくる。
なかなかの速度で髭面の相方の有能さんが俺の隣へ駆け寄ってくる。
「いったい何が? いや見れば分かるがこれは仮面の人が? いやそれよりドリムは?」
質問の三連打に一番知りたいだろう質問にだけ答える。
そうか髭面の名前はドリムか。
「髭っちならあっちで馬車を助けてる」
視線を一瞬だけ馬車の方へ飛ばした有能さんが舌打ちする。
「あの馬鹿なんで逃げない」
「俺はあの馬鹿っぷり好きだなぁ」
軽口を叩いたら凄い目で睨まれた。
「腹立たしい事に私もだよ!」
有能さんはそう言うと、状況を理解しきれていない冒険者達に声を上げた。
「ジュエルヘッドドラゴン相手に五分以上戦えるという馬鹿以外は馬車を手伝え! 馬鹿の自覚がある奴はこっちへ来い! 仮面の人と一緒に時間を稼ぐぞ! 時間は無い、急げ!」
森へと報せに回った為か有能さんが命令を飛ばすのに誰からも文句は出なかった。
有能さんの声に冒険者二人が来る。
いや、これ困ったな。
手伝われてしまっては報酬を分けないと駄目になるじゃないか。
二人の冒険者と俺に、急造のパーティーでも出来る簡潔で的確な役割分担を割り振る有能さんに言う。
ていうか本当にこの人有能だな、なんで髭面の相方やってんだろ?
そう疑問に思いつつ口を開く。
「すまないが、手伝いは要らない」
三人同時にアホを見る目で見られた。
「報酬を分けられないんだ、だから倒すのは俺一人でやるよ」
だからさっさと馬車を何とかしてくれと、言外に言う。
「つまり仮面の人は倒すつもりだったのか?」
有能さんが呼んだ馬鹿の一人、頬のこけた男が呆れた様に言った。
頷く俺にもう一人の馬鹿、
「仮面の人なら
「宝石が必要なんだよ、嫁に指輪を贈りたいんだ」
馬鹿二人が顔を見合わす。
「仮面の人の嫁さんはどこぞのお姫様か何かかい?」
頬のこけた男の若干の皮肉が混じった
「まさか、ただの世界一の女性だよ」
その
「気に入った! 報酬は酒場でする自慢話で十分だ、手伝ってやるよ仮面の人」
アンタ愛妻家だったなぁと禿頭の男が鈍器兼杖を構える。
馬鹿二人が有能さんを見る。
俺の一人でやる宣言から唖然としていた有能さんが震える声で叫んだ。
「馬鹿の密度が高すぎる!」
その言葉に応えるようにジュエルヘッドドラゴンが吠えた。
あとその馬鹿を呼んだのは有能さんだからな?
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