第80話 貧乏子爵家次男は瞳を探す2
*
図書館で夜を明かした俺は朝一番にカウンターへと向かった。
ちなみにだが図書館で夜を明かすのは冒険者あるあるだ。
特に一仕事を終えた駆け出しの冒険者が図書館で寝落ちするのは珍しい事ではない。
今日も三人ほどの冒険者が寝落ちしていた。
もちろんベッドなど無いのでお勧めしない。
当然ながら身体が資本の冒険者が身体をいじめて良いことなど無いからだ。
俺はバキバキの背中を伸ばしながら実感する。
「というわけで何か良い感じの依頼を所望する」
「仮面を取る気は無いんですね」
もはや呆れているというのを隠そうともしないラナ。
ギルド職員としてそれはどうなのか、と思いつつもペラペラと依頼をまとめた書類を捲りながら調べてくれるラナに感謝する。
こちらの意を汲んでくれたのか、
「具体的にはどういう意味で“良い感じ”なんですか?」
「金だ」
ラナが首を傾げる。
「報酬ですか? 失礼ですがロングダガー様、お金が必要でしたらこの前の指定討伐対象の討伐報酬を払う用意は出来てますが? あと教会からの指定依頼の成功報酬も」
俺は首を横に振る、あとロングダガー言うな。
意を汲んだんじゃなくて俺だと決めつけただけか、いや俺なんだけども。
それらの報酬はエリカと共に稼いだ物だ。
俺だけで稼いだ金でないと意味がないのだ。
「誰の報酬なのかは知らないが、それは受け取れない」
「はぁ?」
たまにポンコツらしいラナの、何言ってんだコイツという視線が割と心に刺さる。
いやしかし、今の俺はシン・ロングダガーではないのだ。
「えーっとまぁうん? 何かしらの事情がある物と、というか事情も無しに仮面を着けてるなら
コイツ遠慮しねぇな。
「どこかの誰か様のおかげで大量の魔石と素材が持ち込まれまして、必然的に依頼も
半ば予想していた答えだった。
だが指定討伐対象でもフォレストドラゴン以上の物がないと言うのはどういう事だろう?
いくらファルタールのように強い魔物が湧きやすいワケではないと言っても魔境の近くなのだ。
なんかいるだろ。
「キメラとかいないのか?」
ファルタールで良く放置される指定討伐対象として有名な魔物を言ってみる。
ちなみに暇つぶしに指定討伐対象を討伐してまわる師匠が好みじゃないというのが、放置される最大の理由だ。
ちなみに俺も嫌いだ。
とにかく厄介なのだ、有り余る魔力でもって異常な程の回復力で殺しきれない竜種とは違う意味で、しぶといのだ。
俺も単独で倒しきれる気がしない、狙うならエリカが必要だ。
エリカ……。
「ぐふぅ!」
「わぁっ! いきなり不吉な魔物の名前出したあげくに血を吐くとか
咄嗟に奥歯を噛みしめたら勢いで奥歯を噛み砕いてしまった。
回復魔法で治してから浄化魔法で血を綺麗にする。
「ちなみにいませんからね、キメラ」
半身を仰け反らし気味にしてラナが言う。
「そうか」
まあギルドで都合良く依頼が見つかるとは思っていなかったので痛くはない。その為に図書館で資料を漁ったのだ、策はまだある。
俺が礼を言って早朝の混み合う冒険者ギルドを後にしようと出口に向かって歩いていると、背後からラナが声をかけてくる。
「お預かりしてる報酬は早めに取りに来てくださいね! 奥様でも良いので!」
「ぐふぅう!」
舌を噛み切った俺は噴水のように血を撒き散らした。
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