君のいない道を一人で歩く、ただし君と
第69話 貧乏子爵家次男のオープニングセレモニー
ファルタール王国から追放されるエリカ・ソルンツァリの駆け落ち相手として選ばれて、というか自分から手を上げてから色々とあった。
ファルタール王国から出発した頃には初夏だったが、気が付けば夏と呼んで差し支えのない日も増えてきた。
ファルタールから出発して何日目、最初の頃はそんな風に過ぎる日数を数えたりしていたが。
気が付けば個人的なイベントに基づいて日数を感じるようになっていた。
つまりは今日は魔境の森から帰ってきて四日目の朝だ。
そして俺は朝からテーブルを挟んでメルセジャと茶を飲んでいた。
メルセジャはエリカの父親であるファルタール王国の宰相殿に雇われている冒険者であり、国外追放された俺達との連絡役をしている。
ちなみにだが、外見を説明すると“今は”三十代前半程度の引き締まった体型の顎髭が似合うなかなかの洒落た男性だ。
更に言うなら“二日前に”会った時は、ファルタールからオルクラまで一緒に旅をした時に会った、小太りで人の良さそうな顔をした顔の丸い顎髭の男性だった。
ランク6の冒険者で宰相殿がオルクラまでの護衛としても雇うような人間なので、ただ者じゃないとは思っていたが、想像以上にただ者じゃなかった。
別人かと思うような変わりようだ。
声を聞くまでメルセジャだと気がつけなかったぐらいだ。
メルセジャは宰相殿に上げるこちら側の様子を
あとエリカに宰相殿から預かった手紙を渡す為でもあるらしいが。
肝心のエリカは用事があると宰相殿からの手紙はテーブルに放置され、自室に篭もっている。
宰相殿かわいそう。
「それで何かあったのか?」
俺はテーブルに置かれた宰相殿の手紙を見て、俺も親父殿に手紙でも書くべきなんだろうか? と考えながら言った。
「そうですな、簡単に言ってしまうと旦那の耳に入れておくような事は何もありやせんでしたね」
含みのある言い方に片眉を上げて無言で先を促す。
「お嬢様の人気がヤバいですな」
「当然だろ」
「そこで間髪入れずそう答えるのは旦那だけだと思いやすが」
世の中そんなに目が節穴の奴が多いのかとメルセジャの言葉に内心驚く。
「何を不思議そうな顔をしてるのかわたしゃ分かりやせんが……。まぁ魔境の森の中から魔物の群れを焼き払いながら出てきたお嬢様は、冒険者の中では相当印象深かったらしくてですね、美人な上に強いってなりゃ、ありゃ何者だってなるのは当然でしょーや」
まぁ多少、気が付くのに時間がかかったとしてもエリカの魅力に気が付けるのは良いことだと、俺がウンウンと頷いてるとメルセジャが呆れたような声を上げる。
「目立って喜ぶ国外追放された元貴族なんて普通はいやしませんってのを、もうちょっとで良いから真剣に考えてくだせぇ」
「エリカが目立たないとか無理だろ」
なにせその場にいるだけで光り輝く。
「あんたもでさぁ旦那」
「
「そういう冗談は街中の冒険者から英雄に祭り上げられる前に言うべきですなぁ。まったく宰相様になんて報告して良いのやら」
そう言ってメルセジャが頭を抱える。
ふと確信めいた思いつきが口を突く。
「喜ぶんじゃないか?」
顔を上げたメルセジャが表現しずらい複雑な顔をする。
「追放された先でも活躍する自分の娘を知ったら、あの宰相殿なら喜ぶだろ」
まぁ俺は一度しか会ったこと無いが、そんな気がする。
「どうした?」
変な顔をしたままのメルセジャに問う。
「喜ぶ宰相様を容易に想像できて雇われ先を間違えたかなぁと」
*
まるで見たくない予知夢を見てしまったかのような顔をしたメルセジャは、プロとしての矜持なのかそれをさっと無表情の下に隠すと。
目立つのは仕方ないにしても、気を付けなければエリカの出自まで辿られかねないと俺に忠告してきた。
冒険者が他国の貴族云々の話に興味を持つかはともかく、出自を知られればその先を調べるような
調べた所で辿り付けるかどうか? には疑問符が付くが、俺のように貴族をしながら冒険者をするという変わり種がいた場合は辿り着ける可能性も十分にあり得る。
まぁ貴族なのに冒険者になるような奴なので、中央へのツテもお察し、辿り着ける可能性は低かろうが。
ファルタール王国迫真の工作活動に期待しすぎるというのも間抜けな話だろう。
光の巫女を暗殺しようとして国外追放された、というのは確かに広まって嬉しい話ではない。
調べるような奴が出てきたら暗殺でもするかと、真剣に考えてるとメルセジャがまた頭を抱えていた。
「旦那が何を考えているか手に取るように分かりますんでぇ、それだけは止めてくだせぇ」
「まぁ冒険者なんて基本的に脳筋だ、そこまで気にしなくても良いだろ」
メルセジャの言葉を無視して言うと、メルセジャが呻くように本当にやめてくだせぇよと呟く。
それに頷くだけで返事をする。
「あーそれはそうと」
俺の言葉に溜息を吐くだけで済ませたメルセジャは、それはもう気軽な口調で、まるで遠い親戚の近況を報せるような手軽さで言った。
「旦那のお師匠さんがこっちに来るらしいですぜ」
俺は叫んだ。
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