第54話 追放侯爵令嬢様のいない激闘1
*
「弟子は本当に魔法が下手くそだな」
師匠の呆れたような声を良く覚えてる。
「そのくせ自分の身体から出ない魔法に関してはすこぶる上手いときてる」
身体強化を剣にまで通した俺を見て真実呆れる。
「しかも無駄に変態的に器用ときてる」
ボリボリと無造作に頭をかきながら師匠が言う。
「もうこれはアレだな、弟子。お前はもう普通の魔法は諦めろ、普通の冒険者は諦めろ。とりあえず
ああ、また無茶な事を言うのだ。
「まずは普通の最強の剣士になれ」
ほら言った。
この人はいつもそうだ、自分の基準を簡単に人に当てはめる。
これじゃまるで――。
エリカみたいじゃないか――。
――エリカっ!
*
どれほど自分が気絶していたのか?
そんな心配をする必要は無かった。
何故なら俺はまだ空中を吹っ飛ばされている最中だったからだ。
嗚呼それにしても綺麗に真上に吹き飛ばされた物だ。
そして痛い、もうビックリするぐらいに痛い。
何が痛いって全身が痛いのだが、その中でもとびきり痛いのは両腕だ。
袖の中でどうなっているのかは想像するしかないのだが、両手の指が見えるのでまだくっついてはいるのだろう。
仕方なかったとは言え千切れ飛ばなかったのは幸運の部類だろう。
何せアレの直撃を受けた代償なのだから。
俺は眼下の、森の一部に出来たクレーター中央に立つ魔物を見て思った。
四割は俺の方で受け止められたと思ったんだがな。
俺はヘカタイの家が三軒はすっぽり入る程の大きさのクレーターを見て自分の実力がまだまだだと痛感する。
両腕で受けきれない分を逸らした結果なワケだが、残った威力は六割どころではないだろう。
俺は重力に引かれ満足な受け身も取れずに地面に叩きつけられる。
治しきれなかった両腕から激痛が走るが、それを無視してくっつきかけていた腕を叩きつけるようにして地面を転がり飛び退く。
袖の下で腕の骨がまた折れたのを感じた。
だがそれは十分に利益のある取引だった。
飛び退いた直後にめくれ上がった地面に黒い腕が突き刺さっていた。
その一撃はクレーターを作るような派手さはなかったが、それ以上の必殺の殺意が込められていた。
流石キングシリーズ。
ヤバいな勝てる気がしない。
俺は立ち上がれた事すら奇跡のように思いながら目の前に立つ巨体を見上げる。
オーガナイト、魔物達の王だ。
*
黒い皮膚にまるで鎧を纏ったかのような外皮を持つオーガ。
他国よりも強力な魔物が出やすいと言われるファルタール王国であっても滅多に出会うことの無い魔物。
ファルタールでは冒険者ランク6とランク7では冒険者に明確に差がある。
人間の範疇か、それから外れているかだ。
だがそれ以上にランク7とランク8の差は大きい。
その差を計るのがオーガナイトのようなキングシリーズ呼ばれる魔物達だ。
単独で倒せて初めてランク8と認められる。
そういった魔物は何種類かいて、ランク6以下、つまりはまだ自分は人間の範疇だと自覚のある冒険者はそういった魔物をキングシリーズと呼ぶ。
誰からも人の範疇から外れたとそして更にその一歩先を行ったと認められたければ、王の首を取ってこいというわけだ。
いやしかし、成る程。
俺はフル回転させている回復魔法によって繋がった腕の調子を確かめながら思う。
これを単独で倒せる奴を人間と呼ぶのは確かに違和感を感じるな。
もはや笑うしかないなと、隔絶した実力差を感じる。
実力差がハッキリと分かるだけ、師匠よりも怖いくらいだ。
あ――、来る。
軽く俺の身長二倍はある巨躯からは想像できない踏み込みの速さ。
繰り出された拳は俺の目には殆ど霞んだ残像としてしか捉えられなかった。
俺が避けられたのは単にその拳に魔力が篭もっていたからにすぎない。
強い魔物の中には自分の身体を動かすにも魔法を使うと師匠が言っていた事を思い出す。
そういった魔物は実際に身体が動く前に、身体を動かす為の魔法が発動している。
つまり、魔力が見える俺には魔物の未来の動きが魔力の光によって見えていた。
一呼吸以下の時間で致死の拳を三度避ける。
体中のあちこちが痛い、回復魔法で治りきる前に全力の身体強化で何処かが壊れるの繰り返しだ。
攻撃自体の速さはともかく、頻度はさばける範疇なのは幸運と呼べるだろうが如何せん隙が無い。
このままではジリ貧だ。
ああ、畜生。
俺は、俺は腕一本を諦める事にした。
左腕が袖の下で潰れた。
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