第42話 追放侯爵令嬢様と魔境5
そう思える程の高密度の魔力塊が俺の目には見えた。
自爆覚悟で直下の地面へブレスを吐く気か。
さすが主、思い切りが良いじゃないか。
直下にドラゴンブレスを吐かれれば、俺はおろか二十足ほど離れた位置に居るエリカ達も巻き込まれる事になる。
俺としてはやらせるワケにはいかない。
と俺が考えていた思考が追いついたのは、地面の替わりにフォレストドラゴンの腹を蹴ってその
身体強化を限界近くまで引き上げる。
自分の呼気に魔力が混ざるのを自覚する。
フォレストドラゴンは既に俺の事を気にしている様子は無い。
何があろうと何者であろうと、自身のブレスで全てを吹き飛ばす気なのだろう。
触れそうな程の魔力が変質するその瞬間を捉えた。
思考よりも先に身体が動いていたのを自覚したのは、剣を振り抜いた後の事だった。
フォレストドラゴンの下顎が上顎と激突する。
真上を向くフォレストドラゴンの頭を見て成功したと思った。
これで暴発か、もしくは何も無い空へとブレスが吐かれる、俺はそう思った。
なので次の瞬間に目の前で起きた出来事は俺を多いに動揺させた。
刹那の空白の後、フォレストドラゴンの頬が膨らんだかと思うと、頬が弾けてそこからブレスがまき散らされ始めたのだ。
まるで噴水のように幾筋もの細いブレスが雨のように辺り一面にまき散らされ、いたる所で爆発を引き起こす。
被害の広さだけならそのまま吐かせた方が良かったんじゃないかと思うレベルだ。
あ、マズい。
そう思ったのは俺の身体がやっと地面に着地した所でだった。
エリカ達は――、無事なのかと振り返るとブレスをまき散らすフォレストドラゴン以上に異常な光景があった。
エリカ・ソルンツァリは辺り一面に巻き起こされる破壊の嵐の中で、冷静に自分達に飛んでくるブレスの欠片だけを的確に魔法で迎撃していた。
ブレスの欠片といってもその威力は並の魔法とは比べものにならないのだが、エリカはそれを平然とそして同時複数、迎撃し相殺していた。
煌めく黄金の魔力に破壊の白光、それらに彩られて伝説的な英雄のようにエリカは微笑む。
ああ、さすがエリカだと思いつつも、同時にシャラにも感心する。
周囲ではいたる所でブレスが爆発を起こしているにも関わらず音節魔法の呪文を途切れる事無く唱え続けている。
さすが重傷を負いながらゴールデンオーガに立ち向かおうとした女である。
気合いの入り方が違う、若干白目を向いているように見えるのは錯覚だろう。
安心から油断した。
そう後悔したのは草原の草をまき散らしながら三回転ほどした所だった。
五回転目で地面に剣を突き刺し無理矢理に身体を地面に縫い付けた。
体勢が不利になる、というのは承知の上だったので続いて目の前に迫るフォレストドラゴンの前足に対しては多少の余裕は持てた。
まあだからと言って避ける程の余裕は無かったのだが。
爪と身体の間に辛うじて剣を差し入れると俺は再び吹っ飛ばされた。
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