第41話 追放侯爵令嬢様と魔境4
フォレストドラゴンは森に住むからフォレストドラゴンと呼ばれている。
というのは良くある勘違いだ。
フォレストドラゴンがフォレストドラゴンと呼ばれる
その体表が木のように見えるからだ。
全身から枝のような棘が突き出ており、その先には木の葉のような緑色の器官が付いている。
まるで動く小さな森のよう。
だからフォレストドラゴンと呼ばれているのだ。
魔物討伐の鉄則。
先手を取れる時は必ず先手を取れ。
俺はその鉄則にならって未だに寝そべったままのフォレストドラゴンの頭上へ飛ぶ。
全力で地面を踏み込んだ瞬間、俺の姿を見失ったのか頭上に現れた俺の姿を見て初めてフォレストドラゴンの動揺する気配が
いやいや遅いだろ。
遅すぎるだろ。
慌てた様にフォレストドラゴンが空中にいる俺に噛みつこうと頭を上げる。
そこへ俺は剣を振り下ろした。
周囲に生物を剣で斬りつけたとは到底思えない鈍い打撃音が鳴る。
噛みつこうと大口を開いた口を強制的に閉じさせられたフォレストドラゴンの頭が地面へ叩きつけられてバウンドする。
地面に着地しながら俺は剣の使い心地に感動していた。
何が良いって切れ味を調整できるというのが素晴らしい。
しかも折れる心配をまったくしなくて良い。
フォレストドラゴンの固い表皮を全力で叩きつけても折れるかもという不安すら抱かなかった。
背後を確認するとエリカとシャラが配置に付いた所だった。
盾役のいない俺達としては、フォレストドラゴン相手には近すぎる距離ではあるが。
守るべきシャラの前に立つのはエリカだ、心配のしようはない。
「おっと」
軽くバックステップ。
目の前を俺の身長と同じくらいの前足が通り過ぎていく。
フォレストドラゴンが憎しみのこもった目で俺を睨み付けてくる。
鼻息まで荒くして相当お怒りのようである。
「いいね、その調子で俺に夢中になってくれ」
背後で聞こえだしたシャラの詠唱を背中で聞きながらゆっくりと横に移動する。
釣られるようにフォレストドラゴンの頭が俺の方を向く。
ああ、良いね。
俺は再び全力で地面を踏み込む。
流石に真正面から戦おう等とは思わない。
俺はフォレストドラゴンの真横へと移動すると、その生物の物とは思えない横っ腹に剣を叩きつける。
フォレストドラゴンは再び俺を見失ったのか、突然の横腹への攻撃に絶叫のような咆哮を上げて身体全体を振り回すように目茶苦茶な攻撃をしてくる。
飛んできた巨大な尻尾と前足の攻撃を剣でいなして身体を動かし続ける。
ちょっとした家ほどもある巨体である、適当に暴れただけで十分以上の迫力だ。
俺は万が一逃げる事になった時の為にフォレストドラゴンの後ろ足には切れ味を増して斬りつけ、他の所へは鈍器として剣を叩き付け、的を絞らせないように俺から気を逸らさないようにと気を付けながら攻撃を続ける。
何せ相手はドラゴンだ。
長期戦は必至だ。
俺は先程斬りつけた後ろ足の傷がみるみる塞がっていくのを見ながら相手をしているのが間違いなく竜種であると覚悟を新たにする。
竜種の殆どはその有り余る魔力で凄まじい再生能力を持っている。
必然、俺のように凡庸な冒険者では短期決戦などは望めず長期戦になる。
そうなった場合、気を付けなければならないのは相手の攻撃をまとも食らわない事である。
身体強化の強度に自信があろうと、何度も攻撃をくらえばダメージの蓄積は動きを重くし、それは竜種との戦いでは最も避けなければならない事態だ。
なにせ竜種には。
「そうだな、捕まらないならそうするよな」
隙を晒す事を承知でその巨体を大きく持ち上げ、その牙が並ぶ口腔に凄まじい量の魔力を集めるフォレストドラゴンを見上げて俺はそう言った。
ドラゴンブレス、竜種が持つ破滅の代名詞だ。
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