第40話 追放侯爵令嬢様と魔境3
「え?え?え?」
シャラが俺とエリカの顔の間で視線を右往左往させる。
「前衛は俺で?」
「そうですね、わたくしが中距離から牽制かつ遊撃、シャラが後方から攻撃魔法、という陣営でひとまずはやってみましょう」
「まあ軽く当てる感じならそれで様子見かな。そのまま落とせそうならどうする?」
「わたくし魔物相手の戦い方は詳しく無いので、シン貴方ならどうします?」
「中途半端に傷を負わせておいて、仕切り直して再挑戦は愚策だな。落とすか撤退かの二択だな」
「ではその判断は前衛の貴方にお任せいたしますわ」
「分かった、後は火力の確認だが」
シャラの方を見ると完全に放心していた。
「シャラ、正気に戻れ。君の火力を確認したい」
「え?え?私の火力ですか?」
「そうだ、君の最大火力はどの程度だ?」
「普通の魔法だと火力はそんなに無いですが、音節魔法を使えるのでしたらかなり出ると思います」
成る程、彼女は音節魔法の使い手だったか。
魔法を使うのに呪文が必要な音節魔法は使い手が少ない。
単純に使いづらいからだ。
特殊な発声方法の習得、呪文と呼ばれる音節化された魔方陣の暗記。
それらの低くは無いハードルを超えて使えるのは、発動までに時間のかかる魔法なので冒険者には人気はない。
ただしその威力は凄まじいの一言だ。
ファルタール王国では攻城兵器として使われている。どちらかというと冒険者が使う魔法ではなく、騎士団や王国軍で使われる魔法だ。
「それならフォレストドラゴン相手でも十分に使えるな。まずは一当てでそこまでやろう」
俺とエリカは装備の最終確認をする。
確認と言っても剣帯に緩みが無いかとかそういう細かい事だが。
「シャラの魔法はどれくらいかかる?」
「フォレストドラゴンにも効きそうな、私の最大火力の魔法でしたら最速で三分です。ね?ドラゴン相手に三分とか無理でしょ?帰りましょ?ね?」
音節魔法は知られている最も威力の弱い魔法であってもドラゴンの鱗を貫きうる。
シャラの音節魔法の腕がどれ程かは分からないが、彼女が使える音節魔法が最低威力の魔法であったとしても最速三分というのは中々の速度だ。
ちょっとした嬉しい誤算という奴である。
五分十分は覚悟していたのだ。
「三分なら問題ない、エリカは?」
「三分間シンとシャラの間に立ってドラゴンの攻撃を止めれば良いのでしょう?」
エリカが微笑む。
「楽勝ですね」
完全に涙目になったシャラがすがるようにこちらを睨み付けてくる。
感情表現が器用な人だなホント。
「どこからその自信が湧いてくるんですか……」
その言葉に俺はエリカの顔を見る。
キラキラとした黄金色の魔力が美しい。
「後ろにエリカが居るから」
「前にシンが立っているから」
期せず重なる声にちょっと恥ずかしくなる。
「この状況で惚気られても私は怖いだけなんですけど!」
シャラがそう叫んだ。
*
「本当にこうしないと駄目なんですか?」
「シャラの身体強化だと出遅れてしまいますからね」
不満顔でかつ不安そうな声でシャラがぼやく。
エリカの脇に抱えられての事だ。
そうシャラは荷物のようにエリカに抱えられているのだ。
正直密着できて羨ましいとか思うが、本人は極めて不満なようで今にもブツクサと文句を垂れそうだが。
口から出てくるのは不安げな声であるというのが彼女の心情を物語っているだろう。
何故こんな事になっているかというと、単純な話でシャラの身体強化の強度では俺達の速さに付いていけないので、攻撃の開始が遅れてしまうからだ。
シャラだけ先行させるという事も考えたのだが、本人の猛抗議により彼女の配置位置までエリカが運ぶ事となったのだ。
「さてと、それじゃ行くか」
俺は合図代わりにそう言って地面を蹴った。
「はや!?速すぎる!」
「舌を噛みますよ?」
背後で二人の声が聞こえるが、既に俺との距離は十足程度。
タイミングを合わせる為に速度を抑えてはいるが、人を一人抱えて付いてくるエリカの身体強化の強度は相当な物だ。
フォレストドラゴンまで百足程度になった所で剣を抜き身体強化の強度を上げる。
流石は指定討伐対象、主とか言われる魔物だけある。
明らかに近づくこちらに気が付いているのに悠然と寝そべったままである。
随分と余裕じゃないか。
俺は全力で踏み込んだ。
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