第39話 追放侯爵令嬢様と魔境2

「ところで今日は何を討伐するのですか? 依頼ですか? それとも遊撃でしょうか?」


 そうシャラが訊いてきたのは魔境の端、草原部分での事だった。

 魔境は簡単に分けると、一番人類領地に近い草原部、そこから奥にある森林部、そして更に奥にある深部と呼ばれる三層に分けられている。


 三層に分けられているが森林部ですら探索は出来ていないので実質的には二層だ。

 ちなみに遊撃とは冒険者が日々の糧を得る為に適当な魔物を狩るのを取り繕って言う言葉だ。


「ギルドには良い依頼は無かったので」


 エリカが微笑みながら、今日の天気は良い天気だみたいなノリで言う。


「今日は指定討伐対象を狩りましょう」

「は?」


 シャラが俺の顔を見る。


「は?」


 俺も今知ったからそんな顔をしないでくれ。



 *



 指定討伐対象、その名の通り冒険者ギルドが常設の依頼として出している討伐しろと指定している魔物の事だ。

 俗称ではぬしなどと呼ばれる事もある。


 というのも殆どの魔物は、だいたいこの辺りで発生するという大まかな生息地域みたいな物があるのだが。

 この指定討伐対象は他の地域から流れてきて居着く事からそう言われている。


 まるでテリトリーを主張するかのように動くからだ。

 つまりはテリトリーの主という事だ。


 他の魔物を押しのけてテリトリーを主張できるような魔物なので当然のように通常の個体より危険だったり強かったりする。

 その割にはテリトリーからの移動は殆どしないので探す手間が省けるのだが、当然のように並の冒険者では返り討ちにあうのがオチだ。


 冒険者ギルドも何が何でも討伐してくれ、というよりかは実力不足の冒険者が知らずに遭遇するのを防ぐ為に指定しているといった感じに近い。

 何せテリトリーから移動しないので放置されまくりである。

 今回はそんな長らく放置されている草原の指定討伐対象を狩ろうと言うのだ。



「本気なんですか?」


 シャラの顔は青ざめていた。


「ええ、本気ですよ」


 シャラが助けを求めるようにこちらを見てくるが俺は肩をすくめてスルーする。


「相手が何か分かっています?」

「フォレストドラゴンですわね、森ドラゴンと言う割りに草原にテリトリーを構えるとはウッカリさんですわね」

「普通は騎士団が相手をするような魔物なんですけど!?」


 たまらずシャラが叫ぶ。


「そうなんですか?」

「どうなんだろう? ファルタールではフォレストドラゴン程度では騎士団は出なかったけど」


 エリカの問いに俺が答えると、シャラがファルタール王国が魔境すぎる! と叫ぶ。


「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ、わたくしも居ますしシンも居ます。危なければ逃げれば良いだけではありませんか」

「命がけの鬼ごっことか嫌すぎる!」


 騒々しく叫ぶシャラを見てエリカが楽しげに笑う。

 こんな風に感情を露わに叫ぶような人間は学園には居なかったので新鮮で楽しいのだろうか?


 エリカをこんな風に笑顔にする事が出来るのならシスターのシャラが側にいるのも許せる。

 あんまり相手にされないのは寂しいが。



「ああ着いちゃった」


 シャラが若干泣きそうな顔でそう呟いた。

 低い丘の上に寝そべるフォレストドラゴンの姿が見える。


「大きいですね」

「そうだなちょっと大きいな」

「大きすぎるんです!」


 指定討伐対象になるくらいだから普通のフォレストドラゴンではないと思っていたが。

 ちょっとした家ぐらいあるな。


「それでは一当てしますか」


 エリカの声に緊張という物はなかった。

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