第38話 追放侯爵令嬢様と魔境1

 冒険者ランクを上げる、という目的だけなら教会からのシスター派遣というのはかなり有利に働く。

 教会からの指名依頼が来やすいし、それが無くても回復魔法のエキスパートである彼らが同行すると行動の幅が大きく広がるからだ。


 パーティーを組む冒険者というのはファルタール王国では珍しいが、オルクラ王国ではむしろパーティーを組まない冒険者の方が珍しいので回復役の居る居ないはパーティーの継戦能力に大きく関わってくる。

 何せ回復魔法はスキルで代用できないし、魔法は学ばなければスキルのように使えるようにならない。


 独学で魔法を学び使える冒険者も数多くいるが、どうしても攻撃魔法が優先される。

 なので回復魔法のスペシャリストであるシスター神父は重宝される。


 もう一度言う、回復魔法のスペシャリストであるシスター神父は重宝されるのだ。



「すいません」


 シャラ・ランスラは謝った。

 ヘカタイの街から北へ馬車で4時間、冒険者の足ならもっと早い。


 魔境の端にある人類領域の先端。

 冒険者はキャンプとだけ呼ぶ。

 そのキャンプでシャラ・ランスラは謝った。


「私、シスターなんですが回復魔法がその、ちょっと苦手でして」

「知ってる」

「知ってますわ」


 何を今更、と思いつつ答える。


「肋骨が腹から出ている程度の傷をすぐに治せないのは見てますから」


 エリカのざっくりした評を聞いてシャラが落ち込む。


「ええまぁ、はい。その通りです。先輩にも派閥を変えるように言われる程度の実力です」

「派閥を変える、ですか?」

「私、元々は施術派だったのですが……シスターなのに回復魔法より攻撃魔法ばかり上手になりまして、それだったら派閥を変えた方がと言われてしまって」


 あからさまにションボリしながらシャラが話す。

 派閥の先輩から派閥を変えるよう言われるのは想像以上だった。

 というか本人が変えたいと思っていなかったみたいなので、実質的には派閥を追い出されている。


「人には向き不向き、性分という物がありますから気にしないのが吉でしてよ。怪我を負いつつ村人の為にゴールデンオーガに立ち向かおうとしたシャラには今の方が似合っていますよ」


 エリカがそう慰めるが治療をもって弱者救済を目指す施術派の人間からすれば、それは慰めになるのだろうか。

 ちなみに現在のシャラのように魔物の討伐を補助する事で弱者救済を目指す派閥を護民討伐派という。


「そうでしょうか?」

「そうですとも、弱者の為に強敵へと立ち向かおうとする貴方が診療所で回復魔法を使っている姿の方がわたくしには想像できませんわ」

「頑張れますかね?私」

「わたくしが保証しましょう、シャラはやれますわ」

「エリカ、ありがとう。やってみるわ私」

「その意気でしてよ」



 会話に入れない、寂しい。

 俺は盛り上がる二人を見てションボリした。

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