第33話 追放侯爵令嬢様と買い物しよう5
「少々お待ちを」
テペはそう告げると店の奥へと消え、すぐに一本の剣を持って戻ってきた。
見た目は以前に使っていた剣と変わらないように見える。
装飾の類いは殆ど無く、必要な物を必要なだけ質実剛健というよりかは作った人間からの装飾なんて面倒くさいという強烈な意思を感じる。
実用性一点張りの量産品とは違う、何か強固な意志めいた物を感じてしまうのはこれを持ってきたのがテペだからだろうか?
俺は剣と同じように自分の外見に関しては一切頓着しているようには見えないテペと剣を見比べて思った。
たぶん普通の貴族にこれを貴方の武器です、と差し出したらキレる。
武器であるので実用性や武器としての本質を損なうような装飾は貴族であっても嫌うが、ここまで何も無いというのが私が売りたい貴方の武器ですと言われれば大半の貴族は怒るだろう。
だがそれはこの剣ではなかったらだ。
俺はカウンターに置かれた剣の柄を握るとその剣身に目を見張った。
鉄と魔石の合金、
そして――。
「魔力が吸われる感覚がする。いや、これは魔力が通っているのか」
俺が驚いて目を見開くとテペが嬉しそうに頷く。
「はい、その剣は魔力が良く通るように作っています。ですので――」
その先は聞かずとも分かった。
俺はテペの言葉が終わる前に剣に身体強化をかける。
剣の表面に木目のような模様が浮かび上がる。
「――剣にも身体強化の効果が出ます、とご説明したかったのですが……」
苦笑するテペに軽く謝る。
「驚かせようとした所すまんな、以前から剣に対して身体強化を使っていたんだ」
「それはまた、器用な事で」
テペが呆れたように言う。
やはり武器に身体強化というのは武器屋からしても珍しいらしい。
「だがこの剣は凄いな、前の剣より強化がやりやすいというか無理矢理魔力を通してる感じがまったくしないし、何より強化の質がまったく違う」
テペがありがとうございますと頭を下げる。
「魔力を通している限り絶対に折れないと確信できるくらいだ」
俺が剣をカウンターに戻しながら言うと。
「褒めすぎですよーうへへへー」
テペがクネクネと身体をくねらせ始める。
買うならこの剣だ、俺はそう確信してエリカの方を見る。
なぜなら財布の紐は彼女が握っているからだ。
ぶっちゃけると宰相殿からの援助があるので生活費には困っていないのだが、エリカ曰く家計の管理は妻の役目らしい。
かくしてエリカのジャッジはというと。
エリカはコクりと頷いた。
「この剣、買わせて貰おう」
俺はテペにそう言った。
*
新しい剣はオマケで付けて貰った鞘までも地味だったので、腰に吊しているだけでは完全にどこにでもある数打ちの剣にしか見えない。
まぁ抜いても良く見なければ数打ちの量産品にしか見えないが。
俺はテペから手入れに付いての説明や、直しが必要になったらとかの説明を聞きながら既に腰に吊した感覚までシックリくる事に満足していた。
「まあ基本的には普通の剣と変わりはありませんので普通に手入れしてくれれば大丈夫です」
「ありがとう存分に使わせて貰うよ」
俺が礼を言うと、テペがわっしも儲けられましたと笑う。
ちなみに結構な金額だった。
エリカからのゴーサインが無ければ買う勇気が湧かなかったかもしれない。
まともに冒険者を続けられると結構稼げるのだが、俺は貧乏性故か貯める一方だった。
そう言えばファルタールで貯めた金はどうなってるんだろうか?
親父殿には一応伝えたはずだが、面倒がって預けている冒険者ギルドから回収していないかもしれない。
「ところでわたくしにも剣は売ってくれますかしら?」
俺が置いてきた金の事をアレコレと考えているとエリカがそんな事を言い出した。
エリカの腰には彼女が宰相家から持ってきた剣があるので、俺の新しい剣を見て純粋にテペの剣に興味が出たのだろう。
「その剣をお見せ頂いても?」
テペの質問にエリカが無言で剣を差し出す。
テペは鞘から出した剣を暫く眺めると、剣を鞘に戻し首を横に振りながらエリカに剣を返す。
「申し訳ございませんが、この剣の替わりが欲しいと言うのでしたら王国の宝物庫で探した方が早いでしょう」
「そうですか、店主の剣にも興味があったのですが残念です」
エリカが本当に残念そうに言いながら剣を腰に戻す。
「替わりと言ってはなんですが、どうぞコレをお受け取りください」
そう言ってテペは鞘に入った短剣をエリカに差し出した。
「お代は結構です。ソルンツァリ家秘蔵の宝剣を間近で見れたお礼でございます」
テペが平然と剣を見ただけでエリカがソルンツァリの人間である事を言い当てる。
マジでこの人は何者なんだ。
エリカは短剣を受け取りながら苦笑する。
それは自分の素性を当てられた事に対してなのか、何なのかは分からなかった。
「商売がお上手ですね。剣の手入れが必要な時は店主にお任せしましょう」
その言葉に頭を下げるテペと、上流階級の人だなぁと感心させるエリカの姿に俺がドキドキしていると店の扉が開く音がした。
「テペー、頼まれた物を持ってきたわよ」
そう言って大きな紙袋を抱えた女が入ってきた。
その声に一瞬の引っかかりを覚え、そしてその服装を見て俺の頬は若干引き攣った。
女、シスターは振り返った俺とエリカの顔を見て叫んだ。
「あの時の冒険者!」
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