第32話 追放侯爵令嬢様と買い物しよう4
テペと俺はエリカに二人揃ってゴメンナサイと謝りなんとか許して貰うと、目を合わせてうなずき合った。
何故か妙なシンパシーを感じてしまう。
エリカに怒られると怖いのだ。
同じ恐怖を味わえば連帯意識が産まれようというものだ。
「えっと……お客様の筋肉を見ますに身体強化に優れた純剣士系の方とお見受けしますが宜しいですか?」
エリカの注意を受けたテペが俺にそう確認する。
彼女の見立ては正確で、俺は極めて魔法が苦手だ。
苦手というより攻撃魔法と呼ばれる魔法は全く使えないと言って良い。
何故かは分からないが自分の体内から魔力が出ないのだ。
魔方陣の構築は問題なく出来るものの、そこから発生した魔力が体内から出ない、これは攻撃魔法が使えないという事に等しい。
全く出ない、というわけではないので浄化魔法やちょっとした火種を作る程度の、所謂生活魔法と呼ばれる物は使えるのだが。
その替わりなのか魔力を外に出す必要の無い身体強化等の魔法は得意で、その強度はちょっと自慢できる。
頷く俺にテペがふむと頷く。
「それではスキルは覚えていますか?」
「気配察知が少しと師匠の見立てでは剣術系のスキルが発動してそう、との事だ」
「してそう、との事? 教会で鑑定を受けてないので?」
「事情があってな」
スキル。
魔法が神の御技の模倣なら、スキルは神からの贈り物だ。
少なくとも教会はそう主張している。
魔法と違いスキルは学んで覚えられない。
殆どの者はスキルは実戦を積む間に覚えると言われている。
覚えると直ぐに使い方が分かる物もあれば、覚えているのだとハッキリと自覚しないと使えない物もあるし、覚えているだけで知らずに使い続ける物もある。
魔法に似ていて使用するには魔力を使うものの、魔方陣などの構築などは必要ではなく。
必要な魔力量もまちまちだが、魔法に比べるとその消費量は極めて少ないのが特徴だ。
スキルによって並の攻撃魔法を凌駕する物もあるので、冒険者の中には意図してスキルを覚える方法が無いかと日夜研究している連中もいる。
このスキルだが、何故か教会で鑑定して貰うと何のスキルを取得しているか分かるのだ。
そのスキル鑑定自体がスキルらしいのだが、不思議な事にこのスキルは教会の聖職者にしか発現しないスキルなのだ。
これも教会がスキルを神からの贈り物だと主張する一因だろう。
俺はファルタール王国で冒険者業をしている時にスキルを覚えたという感覚はあったものの、急いで鑑定してもらうという必然性も感じなかったので鑑定した事がなかった。
決して鑑定料金を払うのが惜しかったとかそういう理由ではない。
そういうワケで俺は自分のスキルは未鑑定なのだが、そこでこの茶番劇の役が回ってきたので教会にはおいそれと行けなくなってしまったのだ。
少なくともエリカは行けないだろう、何せ教会からすれば彼女は光の巫女暗殺未遂犯だ。
教会の敷地に踏み入るのすら危うい。
俺自身はそこまでではないだろうが、自分から危うい場所に近づくのは愚か者のやる事だ。
冒険者の立場からすると自分のスキルを把握していないというのは愚か者というより死活問題なのだが。
現状としてはそれを受け入れるしかない状態だ。
というわけで俺達は自分のスキルを把握していないのだ。
俺は事情とは? と言いたげなテペに対して肩を竦めるだけで答える意思がない事を提示する。
「なるほど事情ですか。まあ良いでしょう、この筋肉だけでわっしはお客様に剣を売りたくなりました」
テペの奇妙な言い回しに首を傾げる。
まるでテペが売る客を選んでいるような言い方だ。
俺の態度にテペが怪訝な顔をするとポンと手を叩く。
「もしかしてわっしの店の事を知らずに来ました?」
テペの質問にラナという冒険者ギルドの職員からの紹介で来たと答えると、彼女はあーあーと納得できたとばかりに頷く。
「すいませんあの子は
ポンコツというイメージは無いが、やたらとビビる人だなというイメージは強い。
そうか……あの上にポンコツなのか。
「わっしの店ではわっしがその人を見た上で武器を売らせて頂いています。勿論見た上でお断りさせて頂く事も」
「それで商売になりますの?」
エリカの素直な疑問が飛ぶ。
それにテペは微笑む。
「ありがたい事に」
その顔には確かな自信で満ちていた。
嫌いな顔ではない。
とても客が来なくて暇だと言っていた人物と同一人物とは思えない。
「信じるよ、腕を触るだけでアレだけ当てられた身だしな」
俺の言葉にテペは初対面が嘘のような落ち着いた
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