第21話 追放侯爵令嬢様は責任を取る1

 依頼は失敗だ、という俺の言葉を聞いてエリカは数瞬だけキョトンとした顔を見せると、何故か顔を少し伏せて恥ずかしがりだした。

 予想外の反応に戸惑う、可愛すぎて。


「あの、その、ええそうね、少しハシャギ過ぎたと自覚はしておりますわ」


 チラチラとこちらを見ながら言う。


「こういった場合は少しは殿方を立てるというのが淑女の嗜みというのも分かってはいるのですが、ついつい興が乗ってしまったと言いますか……」


 俺と目が合う。


「ごめんなさい、楽しくてつい貴方の分を残すのを失念してしまいました」


 エリカが頭を下げる。


「いや別に俺の分が無いとかそういう意味で失敗したとか言ってるわけじゃないよ?」

「そうなんですの?」

「魔物狩りは貴族の狩猟じゃないからな」


 確かに彼女の実力なら百匹程のボンボの群れ程度は、貴族が娯楽でおこなう鹿狩りと変わりは無いのだろうが。


「説明してなかった俺が悪いんだが、正直に言うと君の実力を俺が侮っていた」


 俺は頭を下げる。


「同時複数の移動する目標に対して、あれほど正確にあれ程の数の魔法を同時にかつ連続して行使できるとは考えていなかった。知っていたら先に説明したんだが、本当にすまない」


 謝罪する俺にエリカが戸惑った表情を見せる。

 何故、依頼が失敗したかをまだ分かっていないからだろう。


 彼女からすれば討伐対象の魔物は既に消し炭になっているのだから。


「説明するよ、エリカ。冒険者の仕事を」


 俺は身振りで付いてくるように促すと、かつてボンボ達が居ただろう場所へと歩きだした。



 *



 草原に綺麗な焦げた草の円が出来ている。

 円の大きさ的にここに二匹か三匹のボンボがいたのだろう。


 死骸は残っていない、あるのは少量の灰だけだ。

 正直もう少し何か残っているかと思ったが、これ程の威力なのは予想外だった。


 というよりコレを同時複数とかエリカという人間の規格外っぷりが良く分かる。

 王家と大貴族の連中は彼女を学園から遠ざけたかったのなら、排除するのではなく特例でさっさと卒業させれば良かったのだ。


 学園の設立目的は冒険者に負けぬ人材の育成である。

 彼女の実力は三年でコレである、卒業させてもどこからも文句は出なかっただろう。


 俺は馬鹿げた魔法の威力と、そしてそれが正確に円の外には影響を与えていないという驚異的な精密さに感嘆しながらそう思う。


「何が見える?」


 俺の問いにエリカが小首を傾げる。


「灰ですわね」

「そうだな、灰しかない」


 才女と呼ばれる彼女でも貴族としてしか生きてこなかったので分からないのも無理は無い。

 むしろ彼女の戦いは貴族であれば賞賛はされるものだったろう。


 だが冒険者としては困るのだ。


「魔物が死ぬと何になるか覚えてるか?」

「核となる魔石と魔石屑、あとたまにですが身体の一部が魔石屑にならずに残る事がある、と」


 エリカが質問の意図を図りかねて困惑気味に答える。


「そうだな、そして俺達冒険者はその魔石で討伐した事を証明するんだ」


 俺がそう言うとエリカはすぐに気が付いた。


「それでは……成る程、確かにこれでは依頼は失敗というわけですわね」

「すまない、最初に俺が説明していれば良かった、俺の落ち度だ」


 俺はエリカに謝る、これは何も彼女が落ち込まないように等という話ではなく冒険者として当然の行為だからだ。


 情報や認識の共有を図るのは冒険者の基本中の基本である。

 今回はそれを俺が怠ったのだ、師匠に知られれば説教物だ。


「でも本当の問題は依頼が失敗した事じゃないんだ」


 俺達の冒険者としての生活は、ぶっちゃけてしまえば隠れ蓑に過ぎないので依頼に失敗しようが特に困る事はない。

 ただしこの失敗によって確実に困る人達がいる。


「依頼主に魔物は討伐したけど、討伐した証拠を見せる事が出来ないって事なんだ」


 この依頼を出した農村の人達は不都合な二択を迫られる事になる。

 討伐したがそれを証明する術の無い冒険者の話を信じるか、信じないか? だ。


 魔石の一つや二つが残っていたら話は変わってきたかもしれないが、全て灰となっている。

 というかボンボのとは言え、魔石が一瞬で灰になるっていうのは馬鹿げた威力すぎる。


 冒険者ギルドに依頼を出し続けるのも費用がかかるし、討伐はしたという話を信じるにしても不安は残るだろう。

 俺の説明にエリカは暫く考えてこう言った。


「責任を取りにいきましょう」



 *



 エリカは責任を取ると言った。

 失敗したのだから、それを説明する義務があると彼女は言った。


 俺は冒険者ギルドを通して説明してもらっても変わらないと言ったがエリカは自分で村人達に説明すると言った。

 実に彼女らしいと思う。



 農村はボンボを討伐した草原から身体強化を使って走るとすぐの場所にあった。

 農村と言ってもヘカタイの食料を支える農村である。


 良く整備されている上に規模がかなり大きい。

 流石に結界器は無いが柵で囲まれ、いたる所に魔物避けの魔道具が立っている、ちなみに見た目は案山子かかしになっている。


 村の入り口で身体強化を解いた俺達は、近づいてくる俺達を何事かと槍を構えて待ち構えていた初老の衛兵に声をかける。


「ヘカタイの冒険者だ、ギルドに出した依頼の件で来た。責任者に取り次いで貰えないか?」


 そう言ってギルド証を見せる。

 男は俺とエリカのギルド証を交互に見て不審げな顔をする。

 まぁ今は二人ともランク1だし気持ちは分かる。


 ランク1の冒険者二人が何の用だ? って感じだろう。

 男は俺達を不審に思いつつもギルド証を信じてくれたのか、村へ入る事を許可すると村長の家の場所を教えてくれた。

 さて、どうなるだろう?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る