第11話 追放侯爵令嬢様と一緒に初めてを振り返る1
エリカ・ソルンツァリが復活し、俺が彼女に気に入られたと言われ気絶しかけてから二時間ほど経った。
その間にエリカ・ソルンツァリが今回のフザケタ事態を生み出した元凶の事を発作的に思い出して呪詛吐きマシーンと化しそうになったり。
俺が何度か彼女に気に入られたと言われた瞬間の事を思い出して気絶しそうになったりしたが。
無事に初日の旅程を終えそうだ、とメルセジャが御者席から教えてくれた。
「旦那、今日泊まる街が見えてきましたぜ」
特に興味も無かったのだがせっかく声を掛けてくれたのだからと、吹き飛ばされていない方の扉の窓を開けて前方を確かめる。
まだ小さくではあるが平原の中に街が見える。
名前は確かスダバルドだったかな。
冒険者業で何度か来た記憶はあるが、印象にはあまり残っていない。
それもあって俺の興味は別に移る。
「それにしてもメルセジャ」
「なんでさぁ旦那」
メルセジャが護衛も兼ねている御者としてはどうかと思うレベルの気の抜けた声で応える。
「本当に追加の襲撃は無かったな、流石の見立てだよ先輩殿」
メルセジャはエッヘッヘと奇妙な笑い声を上げると自慢げに言う。
「ランク6相当の刺客をポンポン出せるような組織なんてありゃしませんよ、相手さんからすりゃ虎の子を潰されたんでさぁ」
それも簡単にね。
俺は簡単に潰した本人の顔をちらりと伺う。
話題の本人は自覚が無いのか窓の景色を楽しんでいる所だった。
「追加の襲撃が計画にあったとしても、こちらは無傷で警戒もしてる。そりゃあちらさんも一旦は仕切り直し、出来ればその間に依頼主に申し訳が立つ程度にはさっさと自分達の縄張りから出て行ってくれ、って所でしょうなぁ」
メルセジャの言葉に油断はしないでおこうと思いつつも納得する。
冒険者も人間である、様々な理由で身を持ち崩す事はある。
だがそれでも高ランクになればなる程その希少性は上がる。
多少身を持ち崩しても高ランクの冒険者程度の実力があれば引く手は多い。
犯罪組織に拾われるまで身を持ち崩す者は単純に少ないのだ。
あの魔法を使う襲撃者は確かに高ランクの冒険者と同程度の実力があった。
元冒険者であろうと、もしくは在野でそこまでの実力を付けた変わり種であろうとその点は変わらない。
確かにメルセジャの言うとおり、その戦力は組織にとって虎の子だろう。
それを潰されれば、組織にとっては大きな痛手となる。
だがしかし、と俺は思う。
相手は方法は分からないが、人間を魔族に作り替えられるような連中である。
相手がまともな考え方をするような組織だと考えるのは楽観がすぎるだろう。
そんな考えが顔に出たか、メルセジャが苦笑する。
「少なくとも街の中では安心して良いでしょうよ」
街中で人間が魔族になるなんて事が起きれば大騒動でさぁ。
そう言ってメルセジャが笑った。
*
スダバルドの街は所謂、水生成魔道具と結界器を所持した街である。
つまりは飲み水から生活用水まで全ての水を水生成魔道具により作り、街を壁で囲って魔物や外敵から守るのではなく結界器により巨大な結界を作る事で街を守っている。
勿論そのどちらにも膨大な魔力が必要になる。
とてもじゃないがそんな魔力を継続的に魔石などを使って供給するのは現実的ではない。
なのでスダバルドは他の同じような街が採用している方式をとっている。
つまり――。
俺は自分から魔力が吸い上げられる感覚にほんの少しの寒気のような物を感じた。
メルセジャや馬車の馬も同じく寒気のような物を感じたらしく身を震わせる。
何も反応しなかったのはエリカ・ソルンツァリだけであった。
街に入る為の手続きを済ませて、結界の中に入るとほんの少しだけ魔力を吸われる。
街の住人から少しずつ魔力を吸い上げて水を作り結界を作る。
それがスダバルドのような街が採用している方法だ。
魔力が目に見える俺には街中いたる所から天に昇る魔力の流れが見えた。
いくつもの魔力の流れ、人によってはそれを美しいと言うのかもしれない。
だが俺はどうしてもただ一つの流れだけをつい目で追いかけてしまう。
黄金色の、エリカ・ソルンツァリの魔力を。
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