第10話 続・追放侯爵令嬢様と行く馬車の旅3
俺は判決を待つ罪人の気持ちで彼女の返答を待った。
「一年……」
エリカ・ソルンツァリが難しげに呟く。
「それはまた随分と長い期間ですわね」
駄目か、俺は内心の落胆を顔に出さないように努力した。
「御父様も随分と足下を見たものですね」
ん? 宰相殿に何の関係が?
彼女が例のちょっと大きすぎる独り言をごちる。
「確かに今の状況なら“彼女”を一年程度は我が家の方針で誰と引き合わせるか決める事は容易でしょう、いやしかしだからと言って一年とは……」
引き合わせようとしてた偉い人とは女性だったのか、ますます誰だ?
俺は独り言に割り込む事に妙な罪悪感を感じながらも彼女の独り言に割り込む。
「いや宰相殿に何か言われたからというワケでは」
エリカ・ソルンツァリは不思議そうな顔をした。
「そうなんですの?」
彼女の質問に首肯で答える。
「では一年というのは貴方から提案したと?」
俺からも何も今言ったんだがなぁ。
そう思いながらも首肯する。
「呆れたというか何というか、目的の為には手段を選ばない覚悟というのは嫌いでは無いですけれど」
それだけの覚悟を示されたのなら御父様も全力を挙げて約束を守るでしょうけども。
独り言なのか判断の付かない彼女の呟き。
「それにしても律儀にわたくしに付いてこなくても、名目上の夫の身分だけ引き受けて王国内で姿をくらますだけでも良かったでしょうに」
それでは君の側に居られないから本末転倒ではないかと思いながら、彼女の言葉でふと思い出す。
「そう言えば宰相殿も同じような事を言っていたな、もちろん断ったが」
会話というよりかは独り言のぶつけ合いみたいになりつつも、エリカ・ソルンツァリがそうなんですの? と若干の驚きを示す。
そして何故か俺の顔をじっと見ると、すっと背筋を伸ばす。
ちなみにその前からずっと背筋は伸びていたし彼女の姿勢は美しかった。
「そう……そうなの、その選択肢は示された。それなのに貴方はわたくしと共にいる」
俺を見る彼女の瞳は美しかった。
常人よりも豊かな魔力が彼女全体を包み細かい所作に反応しては美しく輝く。
唇から紡がれる言葉は感動的なまでに力強く胸を打つだけの感情が込められていた。
「少しでも側にいられるように、ただそれだけの目的の為に一年を棒に振る」
その感情は真摯さだろうか?
「わたくし貴方の覚悟を甘く見ていたようですわ、謝罪いたします。そしてその覚悟、嫌いではなくてよ」
彼女が笑う。
「シン・ロングダガー、わたくし貴方を気に入りましたわ」
エリカ・ソルンツァリに気に入られた。
その事実だけで気絶しそうになる。
遠のきそうになる意識の端で、わたくしもこれ程に誰かに思われたいわね、と彼女が呟いているのを聞いた気がしたが。
俺には何を言っているか理解できなかった。
幸せすぎて。
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