第5話 侯爵令嬢様復活1
ランク6の(おそらく)斥候系冒険者の探知外からの魔法による狙撃。
そこから導き出せるのは少なくとも相手はランク6の冒険者と同等かそれ以上の実力者という事だ。
俺は馬車の結界に直撃した爆発系魔法が起こした爆風と、結界が魔法を弾いた際の魔力波によって圧迫された鼓膜が痛むのを堪えながら襲撃者の実力を予想し、痛み以外の理由で顔をしかめた。
「旦那!」
御者の男メルセジャが叫ぶのと同時に俺は馬車に飛び乗る。
流石、宰相が愛娘を送り出すのに選んだ馬車だけあって結界は頑丈だ。
馬車には傷一つ無い。
メルセジャは俺が馬車の側面に掴まった所で馬車の中に入るのを待たずに馬車を全力で走らせる。
どこから狙撃されたか分からないので方向転換の手間を惜しんで前進する事を選んだようだ。
馬車の結界は少なくとも後数発は楽に耐えるだろうが襲撃者の規模が分からないので安心は出来ない。
相手の射程範囲外にこのまま抜けられると考えるのは楽観的すぎるだろう。
俺は馬車の屋根へと登り視界を確保する。
存在を察知させないスキルや魔法の類いは多いが人間の視覚を完全に騙すようなスキルや魔法は少ないし、それが使える程の者が相手なら初撃ですら結界で防げていたか怪しい。
「メルセジャ、一つ尋ねるがこれはまだ料金の範疇内か?」
全力で走る馬車の音に負けないように大声で尋ねる。
「もちろんでさぁ旦那!」
ランク6の冒険者が料金内だと言うのなら信じて良いだろう。
金に糸目をつけなかった宰相殿に感謝だ。
俺は再び身体強化を最大限まで引き上げながら前方に意識を集中させる。
後方からであるなら結界が耐えている内に相手の射程範囲内から抜けられるだろうから無視して良い。
相手が魔法を連発してこない事からも実力の程度は知れる。
少なくとも結界に負荷をかけられる程の魔法を使える奴は一人だ。
そうでなければ初撃が結界で防がれた時点で総力を挙げて魔法を放っていたはずだ。
身体強化で強化された視覚がそれを捕らえる。
そうだよな、初撃を防がれたのなら二発目は露見する事を気にする事無く全力でやるよな?
集まった魔力が放つ光が前方の岩陰から漏れて見える。
「いたぞ!」
「旦那!」
メルセジャもほぼ同時に発見したようで馬を操りながら前方の岩を指さした。
「俺が行く!」
言わずもがなの役割分担をあえて口にして俺は馬車の屋根から飛び出す。
要は何があろうと優先はエリカ・ソルンツァリだという事を確認したのだ。
まぁメルセジャがその辺りを間違えるとは思えなかった、宰相殿もそこを間違うような者を雇うとは思えない。
飛び出した俺の背中にメルセジャが声をかける。
「旦那!躊躇っちゃいけねぇよ!」
俺はその声に応える事無く走る。
その覚悟は先程既にすませていたからだ。
俺が飛び出した事に対する反応は早かった。
魔法使いらしい、というよりは顔を隠すためのローブをまとった人間が岩陰から飛び出してきた。
魔法を使う準備は終わっているのか、魔力の流れが真っ直ぐに馬車へと向かうのが目に見える。
襲撃者は近づく俺よりも馬車を攻撃する事を優先したようだ。
狙いは――。
「馬か!」
襲撃者は一撃で事を済ます事を諦めたらしい、まずはこちらの足を止めに来た。
それならば問題は無い、最悪は身体を盾にするつもりだったが馬が狙いなら最悪結界を抜かれても馬車は無事だ。
あと二息か三息という所で襲撃者から魔法が放たれる。
走る俺の側を魔力の奔流が飛んでいく。
放たれた魔法を避ける動作すらせずに完全に無視して突っ込んでくる俺の姿に驚いたのか襲撃者の初動が一瞬遅れる。
相手の首を狙った剣の一撃がそれでも防がれる。
相手が苦悶の声を漏らしながら短剣で俺の剣を弾く。
魔法主体の人間相手に一撃で仕留め損なった。
それと同時に遠くで馬車の結界が魔法を弾いた魔力波を感じる。
俺は内心で悪態をわめき散らしながら身体を半回転させる。
背後から俺を襲おうと剣を振り上げていた男と目が合う。
そうだよな、一人のはず無いよな。
相手がギョッとした顔をする。
コイツが人生初の相手かと俺は思いつつもそいつの首を落とす。
更にその背後にいた二人の男に向かって短剣を投げつける。
一人は喉に短剣を受けてその場に倒れるが、もう一人は胸に受けてうずくまるだけだった。
つまりはまだ生きている。
俺は一足で男に近づきその頭に剣を振り下ろす。
頭が割れる音で悲鳴は聞こえない。
そんな妙な感想を抱きつつ俺は後先を考えずの目茶苦茶な体勢で必死でその場を転がるように逃れる。
直後、俺がいた場所に爆発が起こる。
草の上を転がり草塗れになりながら必死に立ち上がる。
ぼやぼやしてたら死ぬ。
俺が必死に体勢を立て直すと、ローブの襲撃者が無防備に立っていた。
ローブの奥に仮面で隠した顔を俯きがちにし、恨み言のような言葉を呟いている。
こんなはずでは、ガキ一人にとか、こんな事で人間をやめるのか、等々だ。
何を言っているのか、とかそう言った細々とした事は考えずに俺はその首を落とそうと剣を構え足を踏み出す。
今更何をされても間違いなく剣が届く、そう確信した瞬間にそれは起こった。
足下から起こった衝撃波に俺は数メートル程吹っ飛ばされた。
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