発生区域-1


「沙珱ってさぁ、やっぱり竜秋くんのこと好きなのかなぁ?」


 派手なチェリーピンクの髪をやや不安げにいじりながら、桃春恋が言い出した。「あんたどう思う?」という質問に、隣を歩く爽司が生返事を返す。チャラけた容姿の二人が並ぶと今どきのカップルに見えなくはないが、当の二人に笑顔はない。


 竜秋たちと別れた恋たち七名は、現在原宿の竹下通りを歩いていた。手にそれぞれストローが刺さった甘いドリンクを持ってブラブラしているところである。目移りしてあちこち寄り道するヒューと小町があっという間にはぐれてしまったのにも気づかず、恋と爽司の失恋コンビはすたすた先頭を歩いている。


「校内大会終わったあとからいい感じじゃない? さっきだって、竜秋くんと式部先輩を二人きりにしたくなかったのかもしれないし」


「塔の話聞きたいってのは嘘じゃなかったんだろ?」


「そうだけど、心が読めるわけじゃないし。塔の話が聞きたいのもホントで、プラス二人きりにしたくないってのもあるかもじゃん」


「そんなに気になるなら、沙珱チャンに聞いてみたら? たっつんのこと好きなのってー」


「するわけないでしょ。あたしの場合、ただの質問が尋問になんの。友達にそんなマネできるか」


「そんな能力持ってて、未だ色恋に懲りてねーなんて尊敬する」


「竜秋くんは別! 彼は、ウソ言わないんだもん」


 まるで脈がないにもかかわらず、意中の彼の顔を思い浮かべたか口元を緩ませる恋を横目に、はぁ、と爽司が盛大なため息をついた。「どいつもこいつもたっつんたっつん。オレの気持ちにもなってほしいぜ」


「たいして傷ついてもないくせに」


「あり? やっぱ心読めるじゃん」


「読めないわよ、あんたは特に」今度は恋がため息をついた。


「……あの二人、なんだかんだ仲いい? のかな」


 少し後ろを歩くひばりが小首をかしげると、隣で幸永が苦笑する。


「なんだろう、こういうとき自然とあの二人になってるよね。お互いぜんぜん楽しそうにしないけど、なんとなく波長が合ってるのかな」


「並んでいる後ろ姿は、意外とお似合いだな」と一査もメガネをかけ直す。


 背後から級友たちに生暖かい目で見られているとは知らず、恋と爽司はつまらなそうな顔で同時にミルクティーをすすりながら歩く。


「てか、そっちこそ色んな女子と遊んでるみたいだけど、なに考えてんの?」


「別にー? 男子とも遊んでるぜ、同じくらい。色んなやつと遊んだほうが楽しいじゃん? 式部先輩ともお近づきになりたかったなー」


「節操のないヤツ」


「オレは可愛い女子が好きなの、シンプルに。あんたはどう? たっつんは無理ぽだからオレにしとかね?」


「あんただけは有り得ねー。竜秋くんと真逆。ウソばっかりじゃん、あんた。ペラペラすぎてそのうち風に飛ばされそうよ」


「だよねー」


 一瞬、自虐的に爽司が笑った。

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