発生区域-2
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閃の涙が引っ込んだあとは、約束通り伊都が語る番となった。
伊都が二年あまりで攻略してきた七基もの塔の話は、どれも身を乗り出すほどに刺激的だった。ある塔は火の海、またある塔は雪の山。塔と一口に言っても、中に入ればその姿は一つ一つ、まったくの別物だという。
「どの塔が、一番印象に残っていますか」
沙珱の面接官のような生真面目な質問にも、伊都は笑顔を絶やさない。
「それはやっぱり、一年生の秋に初めて攻略した塔ですね。昨日のことのように覚えています」
「どんな塔だっただか?」
「十メートル級、一番レベルの低い初心者向けの塔でした。うろついている
「松クラスが全員か。すげーな」
「いえいえ、私は入学当時梅クラスでしたから。松に上がったのは二年の秋からです」
それは初耳だ。彼女の
「じゃあ、デビュー戦から一気に活躍して名を上げたわけだ」
「いえ、逆です。たかが
竜秋は眉をひそめて彼女の話を聞いていた。その話が事実だとしたら、それを笑顔で懐かしめる伊都が、竜秋には理解できない。
「それで、印象に残っているんですね」
沙珱は逆に、深く伊都に共感したような顔でそう言った。
「はい。自分の情けなさと、それでも美しかった塔の景色が、今でも忘れられません。私がここまでこれたのは、あの日があったから。皆さんにも早く佐倉先生を倒して、塔の中をご覧になって欲しいです」
「言われなくても。なあ?」
「うん。必ず倒す」
「この前なんて惜しかっただよ!」
話題が打倒佐倉に流れ、竜秋たちは伊都まで巻き込んで、真剣に次の作戦を練り始めた。
そして――
自由時間を終え、再集合した竜秋たち十一名は、午後二時過ぎ、葛飾区青戸――
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この世のものとは思えなかった。
直径五百メートルにも及ぶ金網の外壁に囲まれた
金網を乗り越えて間もなく、巨大なスコップでえぐられたみたいに一気に標高が落ちる。外周を
大量の瓦礫が
草の根一つ生えないような
深いブルーの外壁つややかに、一直線に天まで伸びるその尖塔は、【塔11号】とナンバリングされた七十メートル級の塔。挑むことができるのは、すなわち
塔の名前は、
東京であればこの青戸を含む五ヶ所の
「あ、あれがその《
伊都はへこんだ黒い大地の一点を指し示した。身を乗り出して見下ろすと、灰色の砂煙で霞むその先に、遠方、黒い"針"のようなものがかすかに見えた。
実際には、竜秋の背丈を優に上回る巨大な
「すげー! こんな近くで塔見れるなんて! そのこんだくたー? ってやつも、今日のタイミングじゃないと見れなかったもんな! ラッキー!」
はしゃぐヒューの言うとおり、竜秋たちは校外学習中の候補生という権限で、今、一般人の立入禁止区画から数百メートルも
「ふふ、塔に挑戦できるようになれば、目の前どころかナカまでぜーんぶ見れちゃいますよ」
「うおおおおおっ! もえてきたー!」
「私もその瞬間を見たことはありませんが、いよいよ塔の発生が近づくと、あの《
「ほえー、あんなふうに?」
小町がそう指をさすので、伊都と竜秋たちは一斉に視線を
光っている。
冷たく無機質な黒色だった《
「まさか――」
伊都が目を見張ると同時、竜秋たちは一目散に金網に張り付いた。これから起ころうとしている希少な出来事のすべてを記憶に、心に焼き付けるために。
肌が切れそうなほどに、空気が張り詰めていく。光の点滅が目で追えないほどに加速していく。なにか途方もないエネルギーの塊が、あの
刹那。
閃光が眼球を貫いた。思わず目を覆った竜秋たちを、直後に襲った大爆風が散り散りに吹き飛ばした。
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