初めて面と向かって言った言葉

 つい先刻前。

 ついに私は禁断の言葉を吐いてしまった。

 

『殺してやる!!』


 あ〜あ。と思った。

 私もやっぱり粗暴な人間だな、と。

 ちなみに本当に人を殺してはいないのでそこだけはまだ真人間。

 でもねえ。人間、出るときは出るもんだと達観した。

 

 そもそもこんなに私が精神的に荒れている事を整理してみよう……。


 昨日の事だ。

 ここでは便宜上、殺してやると吐いた相手を【オバンサビ管】と呼ぶ。

 理由は簡単だ。根性論を押し付けかねない嫌なクソ女だからだ。

 そういう私も大概、クソかもしれんが。

 この一週間近く、下の階の連中の精神が荒れているのか、とにかく夜の23時から25時の間、壁を殴る音が響く。

 昨夜もそうだ。

 私は腹にすえかねた。

 もう流石に嫌になってきたからだ。

 いい加減にして欲しい。

 鉄筋コンクリートの元社宅のここは振動が響くこと、響くこと。

 上の階層の私など、既にこの拷問みたいな仕打ちをかれこれ半年は受けている。

 じゃあ今になってどうしてそんなに荒れるの?

 原因は確かにそこにあるが、意外とそれ以外の事で私は虫の居所が悪い。

 いわゆるスーパーブラックモードと呼ぶ、闇堕ち翔田美琴だ。

 夜に限って壁を殴ったり、奇声を上げたりする男は有り体に言えば知的障害者だ。私がこの世で一番嫌う生態のやつね。

 サイコパスなりに嫌いだし、人を察する事もできんから、余計質が悪い。

 個体差があるのは認める。

 で、そ~いう奴が金に目がくらんだ元クソハゲサビ管が『負の遺産』としてご丁寧にも置いていきやがった。

 あの野郎。次に会ったら顔を血まみれにしてやる……!

 いい加減に夜勤を入れて欲しい。

 夜中は結構、そういう奴が騒ぐし、何かといろんな事が起きる。

 骨を折ってしまった方もいるのだ。真夜中に、足を踏み外してだ。

 心臓病で発作を起こして亡くなった人もいる。

 なのに夜勤を入れない。

 

 なので、私はせめてもの願いでその【オバンサビ管】に申し出た。


「いい加減にこのホームに夜勤を入れるように上申して欲しい」


 そうしたら何と答えたかと言うと


「あなたが上申書を書けばいい」


 私はその場でボサッと言い捨てた。 


「てめぇの仕事だろうが……!!」


 この一件から目が据わってしまって鋭利ブラックモードに突入している。

 昨夜は早く寝た。20時には布団に入って眠りについたが、燻る怒りの炎は燃え盛る一方で、鎮火するのも一苦労である。

 そして買い物からさっき帰ったが、その怒りの炎が牙を剥いた。


「私にクソみたいな提案したクソオバンか……」

「てめぇなんか殺してやる」

「殺してやる!」


 もうね。制御不能でした……。

 まあ包丁を持ち出す所まではいってないからたぶんやりません。

 でもねえ。ホントなら◯してやりたいよ。

 いやマジで。

 世の中なんで殺しても差し支えなさそうな奴を生かしておくわけ?

 人権なぞ、そんなの知るか。

 じゃあ何かい?

 世の中、すべて、良い奴ばかりだから仲良くやりましょうてか?

 馬鹿言うんじゃないよ。

 世の中は、殺していい奴と生きていていい奴とに別れるんだよ、結局のところは。

 

 この部屋じゃ泣くことすらもできないよ。

 慰めてくれる人もいないよ。

 人間、結局は孤独な生き物かもね。

 別にいいけどさ。

 あんまり他人を必要とはしない人らしいし。

 

 はぁ……。

 昼間の太陽が今はうざったく感じる。

 早く夜にならないかな。

 あの 

 暗闇だけが

 今の私と寄り添ってくれる……。

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