あの家には帰れない

 久しぶりに我が家に帰ってきた。

 実に2年ぶりの実家だった。この2年の間に我が家はかなり変わった。

 久しぶりに見た母の姿は髪の毛の白髪がめっきり増えていた。弟は何だか男ではなく『女』に見えた。父親は明らかに体臭が申し訳ないが受け付けない臭いに変わった。

 私はこの2年でだいぶ考え方は変わった。

 前の私なら引き下がる事も「いや、これだけは言わないと気が収まらないぞ」と思うようになった。この世は万人の万人の為の戦いがある、とはどこかで聞いた言葉だが私個人が抱える問題はそうだった。

 でも、外見だけ変わった感じで、中身は全然変化してなかった。

 弟は知的障害があるが、それなりに頭が良い所もある。だけど、今の作業所が不満なのか、わからないが2年前からずっと行かないまま、ニート生活をしている。

 父親の買い物依存症も治ってない。それはひどくなっているようで、車を買ったという。後期高齢者の年齢を越えているのにローン返済をしているとか。

 母親は心臓病だが、時折心不全を起こすようになり、本当なら手術するべきだが、手術に耐える体力がないらしく、薬での治療を続けるしかないようだ。

 この話を聞いて率直に想った。

 もう、ここには帰ってはならないのだ…と。

 それは母親もわかっていたのだろう。

 出来るなら、たまに遊びに来るのはいいけど、昼間の時間は母親一人だけになりたいから、あんまり来ないで欲しいみたいな言い方だった。

 私にはもう帰るべき場所は今のホームだけになった。

 ここだけなのだ。

 帰り道のバス。

 私は覚悟を決めた。

 もうここには帰らない。

 振り返らない。

 前だけ。前だけを見て生きようと。

 私の人生だ。

 好きな事をして、好きなように生きる。

 もう家族は頼りにならない。

 私は1人で生きるしかないんだ。

 だったら、もうグダグダ考えるのはやめた。

 そっちも大変だけど、私は勝手に生きるから、そっちはそっちで頑張ってね。

 そう、心の中でお別れをして、いつもの日常へと帰った私がいた。


 一抹の寂しさは感じた。

 悲しかったのも認める。

 だけど、私は私の人生を歩むのを家族が認めてくれたと思いたい。

 もう連絡はする事はないだろう。

 帰る事もないだろう。

 それでいい。

 それでいいのだ。


 あの家にはもう帰れない。

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