ボンサマ

青いバック

第1話ボンサマ

 日がすっかり落ち込み暗闇に飲まれた公園に、私と君は立って漫才をしていた。

 君はコンビ解消後売れっ子になってしまったけど、こうやって八月の十三日には二人でよくネタ合わせをした公園に来てくれる。


 今日がそのネタ合わせの日で、私達は一年ぶりに横に立って漫才をしている。


「はいどうも〜。ボンサマです!」


 ボケの君が、コンビ名を言うのを皮切りに怒涛のツッコミとボケの掛け合いが始まる。


 私はツッコミ担当で、君がボケ。これを約五年やってきた。よくアドリブをするからツッコミが大変なんだよ。君は。

 地方の方では、有名なコンビとして名を売っており、そろそろ地方から飛び出そうと話し合っていた時にコンビ解消は突然にやってきた。


 私と君は泣いた。

 でも、君は一年後前を向いてまた漫才を始め今ではもう名前を知らない人はいない。という所まで上り詰めた。


「あ、そうそう。 今日はね八月十三日ですね」


「そうだね。それがどうしたの?」


「私の誕生日も、八月十三日なんですよ」


「いや、知らないよ! ていうか私の誕生日ね今日!」


 今交した言葉全て、君と私のアドリブで形成されている。

 一年に一回だけ会う私たちは、どちらかが台本を書きそれを読むということはしない。いや、出来ないの間違えかな。


「そうそう。 私売れっ子になりまして。 知ってます?皆さん?」


「知ってますよ〜。 もう名だたる芸人の方々にも認知されてるじゃないですか」


 観客もいない公園で、誰かが居るように喋る君。そんな君を月明かりがスポットライトのように照らす。


「いやあ、天狗になりますわ! え? コンビは男と女じゃないか? いやいや、男だけですよ!」


「なに急に訳の分からんこと言ってんの?」


 アドリブの為、君は適当な事を言う。しかし、観客も居ないこの漫才では適当な事も許される。


 でもそれこそが、このアドリブ漫才の良さだ。


「やっぱり一人で漫才は寂しいですね。 私がボケても誰もツッコミを入れない。 これじゃあ私が頭のおかしい人みたいですよ」


「いやいや、私いるし! ていうか、君頭おかしいでしょ」


 ごめんね。 一人にして。コンビ解消してゴメンね。

 私も君とまだやっていたかったよ。


 でも、それはもう叶わない。叶えたくても、どんなに祈ってもそれは通じない。

 月明かりのスポットライトが、君だけを照らす。


「あっ、もうこんな時間だ! 売れっ子は時間が無いからなあ! で、今日私の誕生日何ですよ 」


「もうええわ。 ありがとうございました」


 君は、それだけを言い残すと待ってもらっていたタクシーに乗り込み次の仕事へ向かってしまった。


 私の足元には、私の好きだった向日葵の花が供えられていた。

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