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起床。
いつも通りの気持ちのよい朝だ。枕元の時計を見る。忌々しいほどに何度も見た時計盤の形。7時。もう少し寝ていようなんて気すら起きない清々しい朝。ヘリオスは何度体験しても思う。なんて気持ちのいい朝なんだ、と。しかし、毎朝毎朝全く同じ朝。同じ時間。同じ快感それ以上もなく、それ以下もない。
朝、けだるいと感じる中で目を覚まし朝日を見に行く。最悪の気分が一気に塗り変わる……夜明けとともに始まる朝。ヘリオスはそれが大好きであった。毎日の安定した快感よりも朝の微睡みや気怠さ、それを感じたくてたまらなかった。
久しぶりである。まだ実験すら行っていないが、その微睡みを感じられる「もしかして」、がある朝は久しぶりだった。
こんこんと、静かなノックの音が鳴る。
「ヘリオス様、お召し物をお持ちしました。」
次いで、聞きなじんだ使用人の声がする。それだけで、ヘリオスは今日が昨日と違う気がすることに気付く。深く沈んでいた気持ちが一気に水面へ浮上する。
「ホルメーか、入れ。」
ホルメーも心なしかいつもより機嫌が良さそうだった。
寒気。
少し身震いする。その機嫌のいい顔がかつて見た父の笑顔と似ている気がした。なぜだろう?少し考える。しかし、その表情も一瞬で、気のせいかと首を振る。
「ついに今日、久しぶりの朝日を見れるかもしれんな。」
「そうですね。私もヘリオス様と朝日を見に行くことができる日を心待ちにしていました。」
どうやらホルメーは本当に機嫌が良いようで、これまでに見たこともないような笑顔をヘリオスに振りまく。ヘリオスは服を着替えさせてもらっている都合上その笑顔を間近で見ることになり、少しドギマギとしてしまいそうになるのを抑えつつ会話を続ける。
「今日はちょうど外出の予定もある。薬屋で銀紙だけを売ってもらうとしよう。」
「私は、成功するのを楽しみにしていますよ。見に行きましょう。朝日」
ホルメーの機嫌はやはり相当良いようで、昨日までとはまるで別人である。無表情でクールなところが彼女の魅力であったはずなのに、今日はそれが完全に失せている。
「おまえ、本当にホルメーか? 」
「はい、もちろんです。私はずっとホルメーです。」
ホルメーはスン……といつもの表情に戻り、いつもの表情、いつもの口調に戻る。ヘリオスは何か違和感を感じる。しかし何かはわからない。よく思い出すと先程の笑顔、毎日のように見ている気もする。
気付かなかっただけなのかもしれない。
今日のヘリオスにはそう感じられた。もしかして彼女は最初からこの笑顔を自分に見せていた? 自分の機嫌がいいから全てが良いものに思えているだけ? そうだ、そうに違いない。
自分の中に湧いた感情、違和感にそう結論をつける。
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