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「クソっ!」
ヘリオスは食卓から部屋へ戻り、ベッドの上で枕を叩きつけ、悪態をついていた。彼が唯一保有している使用人、ホルメーを相談相手に据えて首輪を外す方法を模索するのは最近の日常であった。
「ヘリオス様。ゴネア様の書庫より首輪についての記述が書いている本を見つけてきました。」
ホルメーは先程汚れてしまったヘリオスの着替えを手伝いながら会話を進める。顔の汚れを拭き取り、汚れた上着を着替えさせていく。
ここ最近、首輪を外す方法を探すという行為は日々その場で足踏みするだけの毎日であったが、今日は進展がありそうな雰囲気が漂う。
「でかした。報告するということは……要点をすでにまとめ済みか?」
「はい、もちろんです。」
ホルメーはそこらの図鑑や辞書並の大きさと太さがある本を開き、しおり代わりに紐が挟まれたページを明け、解説していく。
「『睡眠制御の首輪』は刑務所などの夜間警備費削減などを目的として作られた装置。この装置を着けた者はどのような作業をしている途中でも睡眠起床はその首輪によってコントロールされる。一度寝ると起きることはなく、一度起きると機械による強制睡眠以外の方法で寝ることが出来ない。ここまでは分かりますよね?」
「ああ、もちろんだ。」
ヘリオスは首と首輪の間に人差し指と中指を突っ込み、前に引っ張るようにしながら話を聞いている。
実体験を思い出し少しイラッとする。パーティの最中、唐突に寝てしまったこと。風呂に沈んだこと。どれも記憶が無い時の自分だ。なんなら自分ではなく首輪のせいだ。しかし他者はそれがわからない。首輪のせいでなにかをやらかしたとき怒られる時いつも叱られるのは自分だ。
「私はそこまで文字の読み書きは得意ではないので、この程度の翻訳すら3日かかっています。だからなんとも言えないのですが……この首輪を使用する上で首と首輪の間に金属を挟まないように、と書かれていることはわかりました。」
「そうか、なるほど!つまり首と首輪の間に金属を差し込めばいいのだな? 」
――コンコン。
音が鳴る。キリが良い、しかし盛り上がってきたところ、場が温まってきたところで邪魔が入ってしまう。
「ダスカロスです。ヘリオス様はいらっしゃいますか? 」
扉の向こうにいるのは家庭教師のダスカロスだ。平民でありながら大学出身。貴族に勉学を教えることによって食いつなぐ。いわゆる文学人。
「入れ。」
その言葉と同時、ダスカロスは部屋に入る。ホルメーがヘリオスの襟を正し、ヘリオスは気品ある貴族を演じる。
「今日の予定は?」
「はい、昼食まで数学、そこから2時まで歴史、4時まで語学です。」
「わかった。早速数学から教えてくれ。」
ヘリオスが勉学の頭に切り替えたのを確認したホルメーは、「御用の時はすぐにお呼びください」と一言残しスッと消えるように退室する
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