第34話 10-4

 気がつくと、私はピエロの前に立っていた。


「そ、そんな……あの人は私を見捨てるというのか!」

 私を見て、ピエロが叫ぶ。


 手には夢でおじさんがくれた短剣が握られていた。

「ピエロさん……あなた、嫌い」

「な、何をおっしゃるのですか……お嬢様……」

「私、お嬢様なんかじゃない……。倉石 真帆だもん!」

 短剣を強く握る。剣先をピエロに向けた。

「あんたなんか、大っ嫌い!」

 ピエロはおびえて、私に背を向けると、空に飛び上がった。

 私と少し、距離をおくと振り返る。


「わ、私に立ち向かうとは、愚かな! いいでしょう。殺して差し上げます!」

 ピエロが拳をにぎって、私に向けた。

 拳を開くと、手のひらから、無数の光線が放たれた。


 私は思わず「えいっ!」と言って、剣を振った。

 振ったと言っても、何も考えずに空間を斬っただけだ。攻撃というには程遠い。

 だけど、私が剣を振ると、呼応したように剣が赤く光り、剣の先から灼熱の炎が放たれた。

 炎は光線を掻き消し、勢いを緩めずにピエロを襲った。


「ぐわあああああ! そ、そんなバカなことがあってたまるか! 私は……私は、百八魔頭の一人だ! こんなところでぇ!」

 私がもう一度、剣を振ると、今度は剣が黒く光り、剣から無数の獣が飛び出て、空へ駆け上っていった。

 その獣達の姿は皆、皮膚がただれていたり、骨が体から突き出ていたり、首がなかったり……と、五体満足ではない。

 まるで、地獄から送られてきたようだ。


 獣達は一斉に、ピエロへ飛び掛った。

 逃げる事も出来ず、獣達が彼の肉体を貪る。

 ピエロは恐怖と痛みから、半狂乱の状態に陥っていた。

 息も絶え絶えに呟く。


「こ、これは……タイガの剣」

 やがて一匹の獣が空に向かって、咆哮をあげる。

 すると、何も無かった空間に黒い切れ目が生じ、徐々に開いて楕円の穴ができた。

 その穴は底無しの闇で、中からは黒い腕が何本も蠢いてた。

 獣達は引き千切られたピエロの体を引っ張って、穴の中に入っていく。


「い、嫌だ! 嫌だぁ!」

 ピエロは心底、恐怖を味わっているようで、残った身体をじたばたとさせて、抵抗し続けている。

 だが、獣達は容赦なく、彼を闇の穴へと引き連れていった。

 そして、穴が塞がれると、私の手に握られていた短剣が灰となって、風に流された。



 気がつけば、氷塊の雨は止んでいた。

 ハークは、未だに気を失ってはいたが、息はある。

「よ、よかった……」

 私は、地面にへなへなと腰を下ろした。

 ふと、北の空を見た。。

「あれって……」

 そこには、大きな古城が宙に浮んでいた。

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