第33話 10-3

 私は暗くて冷たい、何も無い部屋にいた。

「ここは……また? なの……」

 真っ暗な闇に、スポットライトが当てられた。

 光りが当てられた場所には、石で出来た大きな王座があった。


「一年ぶり……か」

 そこには金色の覆面兜を被った男が一人座っていた。

 よく見ると、たくましい背には大きな白い翼。

 とてもヘンテコな格好をしているのに、妙に似合っているというか、様になっている。


「久しぶりだな」

 私は首を傾げた。

「どこかで、お会いしました?」

「なんだ、忘れたのか? ほら、海峡で会っただろう」

「え、海峡で……」

 このおじさん、何なのかな……。


「まあ、いい。母は元気か?」

 私は俯いて、答えた。

「母は五年前に死にました」

「そうか……すまない」

「いいんです。私、お母さんが死んでも、周りにいい人がたくさんいたから、寂しくありませんでした……あ、あれ……何でだろう。涙が……」


 涙が止まらない。止められない。

 なぜだろう……この人の前では、嘘がつけない。


「すまなかったな……」

 私は涙を拭いて、おじさんの方を向いた。

「何で謝るんですか?」

 その人は立ち上ると、私の頭を撫でてくれた。


「辛い思いをさせた……全て、私のせいだ……」

 おじさんの手は、とても大きかった。

 私の頭がすっぽり入るぐらい。

 頭を撫でてもらうと、なぜか落ち着いた。

 暖かい手がとても心地よい。

 まるで、母さんの膝枕のよう。


「真帆……」

 私は目を丸くした。

「え? どうして、私の名前を知っているんです?」

 おじさんは答えず、私の手に何かを握らせた。

「せめてもの罪滅ぼしだ……。どんなことがあっても、生きてくれ……」

 渡された物は、私の手におさまるぐらいの小さな短剣だった。


「それから、お前の大事に想う人間が近くにいる。その人間は破滅に近づこうとしている。早く……早く、助けねばならない。それは、真帆、お前しか出来ないことだ」

 おじさんはそう言うと、王座に戻る。


「あ、待ってください!」

 スポッライトが消えた。

 また、耳元で、プツンという音が鳴った。

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