第30話 9-2

 ドラムは全身の力がどっと抜けたように、その場に膝をついた。


「こ、これが……ここにあるということは〝ヤツ〟も復活したのか……」

 一人合点するドラムを、訳も分からずに見ていた。


「なあ、この城の事を知っているのか?」


 僕にきかれてドラムは力なく頷く。そしてぽつぽつと、語り始めた。


 この地球、マザーをめぐって、戦った魔族のこと。

 それらを統べた魔族の王、タイガのこと。

 王が行方不明になったあとに、現れた魔王、ロンゼ・ブリード。

 そして、魔王がつくった、史上最悪の兵器〝悪魔の蓄音機〟のこと……。


 ドラムは語りだしてから、冷静さを取り戻してきた。

 この地球に関することを全て語り終えると、立ち上がった。


「つまり、あれが全てを終わらせ、また、全てを創めたのだ」

 話のスケールの大きさに、身を震わせた。

「あ、あんな古城が、この地球を……」

「そうだ……地獄はもう二度と見たくない」

 ドラムは右手を開くと、古城に向けた。


「ど、どうする気だ?」

「壊す」

「どうやって?」

「月花陣をかける」

 そう言うと、ドラムの手は桃色に光っていた。


「そんな! 月花陣は未完成だと、自分で言っていたじゃないか!」

「それは、お前が使っている術のことだ。私の術は完成している」


 ドラムが「陰!」と印を結んだ。

 城の周りに線が引かれていき、円が描かれる。

 やがて円陣に、桃色の花が描かれ、光りだした。


「見ておけ……これが、完成した月花陣だ!」


 僕が今まで使っていた術はこれで完成だった……。


 しかし、ドラムのかけた月花陣はまだ終わっていない。円陣から薄い膜が球状に広がっていく。

 円陣ではなく、球陣となったのだ。

 大きな球が城を包んでいる。


「こ、これが……完成した月花陣……」

 僕は思わず、息を呑んだ。


「そうだ、お前の使う月花陣には、隙がある。それは円陣だ。所詮、『円では中のものを閉じ込められない』それが、原因だ」

 ドラムは人差し指を立てて、腕を上げた。


「忌まわしき城よ。これで、お前を見るのも最後だ!」

 その時だった。城の真上に、大きな戦艦が現れた。


「ドラム、あの戦艦は!」

「あれは……」

 彼が顔をしかめていると、戦艦から「ぼん!」という爆発音が聞こえた。


 しばらくすると、戦艦が傾く。

 船の上には、なんと城が浮かんでいる。

 青い色の城。

 それは戦艦めがけて突っ込んできた。


 大きな音を立てて、戦艦と城は衝突する。

 煙をあげると、その二つは森の奥へと落下していった。

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