第28話 8-4

 俺は海呪城の門前に立った。

 それを見たミノが駆け寄ってくる。


「黒王様、本当にそのまま、飛び降りるのですか? 城内には、妖鳥と呼ばれる大きな鳥がいます。それに、お乗りになられた方が……」

「いらねぇ……。婦子羅姫を乗せろ。俺が隙をつくるから、その間に、〝悪魔の蓄音機〟の中に入れ。あとから、俺も行く」

「は!」

 ミノが足早に去っていく。

 それと入れ替わりに婦子羅姫が現れた。

 なにやら、浮ばない顔でモジモジしながら俺の顔を窺っている。


「どうした? もう、そろそろだぜ」

「いや……さっきはすまぬ。そなたのことを恐ろしいと……」

 婦子羅姫はチラチラと俺の顔を見ては、視線を落としている。


「別に怒ってないよ。気にすんな。でも……今は恐くないのか?」

「ああ、そなたは妾を守ってくれると言った。だから、恐くない」

「そっか……んじゃ、俺は先に行くぜ」


 門が、「ギギー」という音をたてて、開かれる。

 

 五千メートル近い上空からはぴゅうぴゅうと、強い風が吹いている。

 マントがバサバサと激しく揺れる。


 考えてみりゃ、俺、真っ黒だぜ。

 槍も、鎧も、マントも、仮面も……もしかしたら、心も……。


 俺は何も考えずに、門を飛び越えた。

 門の外は、青い空。足場などない。

 何も考えずそのまま、落下していった。


 パラシュートをつけないスカイダイビングのようなものだ。

 徐々に、落ちるスピードが速くなる。


「あれか……」


 ちょうど、古城の真上に、その戦艦は浮んでいる。

 俺は槍を真下に向けて、投げつけた。


 別に、そんなに力を入れたわけでもない。

 だが、槍は光りより速く、風を突き抜けていく。

 戦艦に当たると、厚い何重もの装甲を突き破った。


 やがて、「ぼん!」という音が鳴って、甲板から火があがった。


「次は……」


 遅れて、俺が戦艦の上に飛び乗った。

 何千メートル上から、落ちて来たというのに、体にはなんの異常もない。

 これが魔王の力か……。


「この戦艦、デカすきなんだよ」


 俺は拳を上空にかかげた。

 指先からはビリビリといった、黒い電磁波みたいなのが流れている。

 それを厚い装甲に思いっきりぶつけた。


 拳を当てたところから中心にして、波のように黒い電磁波が艦全体に広がっていく。

 戦艦が大きく、揺れだす。

 所々に、火花が散り、機械が故障を訴えている。

 

 それらを確認すると装甲を突き破って、艦内に侵入した。

 俺が入ったところは、廊下だった。

 中には、頭から猫のような縦耳を立てた兵士が数人いた。


「だ、誰だ! 貴様!」

「黒王だよ、覚えときな」

 

 その猫人間達を拳で黙らせ、奥へと進んだ。

 動力部はどこだ?

 ドアを手当たり次第にぶち壊して、探す。


「これか……」

 そのドアは、普通のドアと違って、〝CAUTION〟と書かれている。

 コンピュータロックで厳重に守られていた。


「ち、めんどくせぇ」

 俺はドアを力任せに蹴破った。

 文字通り、扉は大破した。


「さすが、魔王の力」

 部屋に技師が何人かいた。

 迷うまでもなく、気絶させる。

 中は薄暗く、奥には巨大なエンジンが「ブウウウ」という音をあげて、動いていた。


「これか……」


 拳を突き下ろす。

 たった一撃で、エンジンは鉄クズとなった。

 艦がガクンといって、力が抜けたような揺れを起こす。


「よし、こんなもんか……」

 俺は力任せに、厚い壁を壊して、戦艦から脱出した。

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