第27話 8-3


 俺はミノに押されて、嫌々、壇上に上がった。

 目前には、五千を超える妖怪達が集まっている。

 その場の空気に少し緊張していた。


「あ……え~、まあ、その……今日は……」

 思うように、言葉が出ない。

 すると、妖怪達から罵声があがった。


「聞こえねぇぞ! 元人間の大将さんよ!」

「そうだ、そうだ! それでも、魔王か!」

 次々と、罵声があがる。

 ミノがとめようとしたが、なかなか、やまない。

 妖怪の長である婦子羅姫が俺を認めた。

 とはいえ、俺が魔族を憎むように、コイツらもまた、人間を憎んでいるのだろう。

 しばらく、黙って聞いていたが、とうとう、俺はキレた。


「う、うるせぇ! 黙って聞けぇ!」

 興奮したせいか、「ぜいぜい」と言って、肩を震わせた。


「いいか、俺が言いたいのは一言だけだ!」

 それまで騒いでいた妖怪達が沈黙した。

 じっと、みな俺の方を見る。


 五千以上もの妖怪の視線が充てられた。

 俺は首を左右に動かせ、妖怪達の顔を見回してから、拳を掲げた。


「異国の化け物なんぞ、ぶっ飛ばせ!」


 妖怪達から歓声があがった。


「やろうぜ! 大将!」

「よくぞ言ってくれたぜ!」



 ミノがそばに近寄り、「お見事です」と言った。

 俺の心は充実感で溢れていた。


 妖怪達と、魔王である俺は、いま一つの目標のために繋がった。


「やっちまおうぜ! 黒王さんよ!」

「へっ、元人間にしちゃ、なかなかじゃねぇか!」


 気づいた時は、俺も笑っていた。



「黒王様、ありがとうございました。これで、錆びついていた城内にも活気が戻りました」

「んなことねぇよ」

 壇上から降りると、ミノに連れられ、格納庫に向かった。

 そこには、動きやすい服に着替えた婦子羅姫がいた。

「終わったか」

 俺は婦子羅姫の姿を直視できなくなっていた。

「どうした? 黒王」

 婦子羅姫が下から顔を覗きこむ。


 彼女の服装は動きやすくなったのと同時に、肌の露出が高いものになっている。

 床にズルズルと引きずっていた装束とは違う。

 色気づいた女忍者が着ているような、短い上着を羽織って、腰に帯を巻いているだけだ。

 まるで、人間界のミニスカートみたいだ。

 彼女のすらっとした白い脚が露になっている。

 それに、胸元が深く開いたデザインなので、彼女が動く度に胸の谷間がチラチラ見える。


 まったく、目のやり場に困る服装だ……。


「どうされました? 黒王様、お顔が優れませんぞ……。具合が悪うございますか?」

 ミノが心配そうに、俺を見る。

「だ、大丈夫だって……」

「そうですか……。あ、忘れておりました。ご要望の物をお持ちしましたぞ」

 ミノが差し出したのは、俺がさっき注文した黒い槍と鉄仮面だった。

「へえ、早かったな」

 俺は槍を持って構えてみた。

「思ったより、軽いぜ」

「気に入られたようで……嬉しゅうございます。それから、よかったら、これもお使いくだされ」

 ミノは俺の後ろに回ると、鎧に何かをつけた。

「ん? こりゃ……マントか?」

「はい、やはり、鎧にはマントが合うかと……」

「ありがとよ。気に入ったぜ……。じゃ、そろそろ行くか」

 俺は鉄仮面を被った。

 仮面を被った瞬間、視界が闇一色になった。


 ただの鉄仮面なのに、被っただけで、気分が変わる。

 全てが黒く見える。今まで、咎めていたことや、迷いなどが、全て消えていく。

 まるで、心が黒く染まっていくような気がする……。


 これで、敵を何の迷いなく、殺せる。

 敵とはいえ、相手は生き物だ。殺していい気がするわけない……。

 でも、この鉄仮面を被ったら、何とも思わない。


 別に、ミノが鉄仮面に細工をしたわけではない。

 俺の気持ちの問題だ。


「ん? どうした……。姫」

 婦子羅姫がおびえた目で、俺を見ている。

「こ、黒王、そなたが仮面を被ると、人が変わったような気がする。とても、恐ろしい眼をしておる……」

「そっか、俺は魔族以上か……」

 黒王か……まんまだな。

 俺はやるせない思いで、叫んだ。


「よし、出るぞ!」

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