最終話

「………やっと静かになったな」

「うん。お疲れさま」

「真澄も」

 

 

 

 

 

 賑やかなバーベキューは、途中から場所を家の中に移して夜の9時過ぎまで続いた。

 

 

 まず美夜さん一家が帰って、うちの両親が豆の助と帰って、七星のご両親が豆太と帰って、最後歩がさっき帰って行った。名残惜しそうにこまめーって言いながら。

 

 

 

 

 

 いつも通りの静かな部屋。

 

 

 仕事部屋から移動させた天球儀を飾った居間が、さっきまでが賑やかだっただけに、いつもより静かに感じる。

 

 

 

 

 

 そこにこまめの小さないびきが部屋に響いていて、思わず笑った。

 

 

 こまめは今日1日走り回って疲れたらしく、もうゲージの中で寝ている。

 

 

 爆睡の仰向けスタイルで。

 

 

 

 

 

 お風呂の前にコーヒーでもいれようかって、僕は台所に立った。

 

 

 手伝うよって、すぐに七星が来てくれた。

 

 

 

 

 

 バーベキューからの大騒ぎだったにも関わらず、そんなに散らかっていないのは、母さんたち女性陣が片付けていってくれたから。

 

 

 

 

 

 こんな日が来るなんて。

 

 

 七星の家族と僕の家族が、全員で集まって、こんな。

 

 

 

 

 

「疲れた?」

「ん?………うん。耳が少しキーンってしてる」

「ちょっと疲れたな。俺がやるよ。真澄は座ってろ」

「ありがと」

 

 

 

 

 

 コーヒー豆を入れた手動ミルを、七星の大きな手が、僕の手から持っていく。

 

 

 

 

 

「………ん?」

 

 

 

 

 

 じゃあ甘えちゃおうって、コーヒーは七星に任せて、僕はそのまま七星の背中にくっついた。

 

 

 

 

 

 どうした?って優しい声。

 

 

 身体から伝わるぬくもりと振動。

 

 

 

 

 

「またひとり増えるからな、家族。全員で集まるのは考えた方がいいかも。さらに騒がしくなる」

「んー?でも楽しかったよ?」

「まあ、楽しかったけどな」

 

 

 

 

 

 美夜さんのお腹にいるもうひとりの家族は男の子だって、今日美夜さんに教えてもらった。イケメン希望‼︎って。

 

 

 そんな美夜さんのお腹を、美夜さんと健史さんの了解を得て触らせてもらった。

 

 

 

 

 

 てのひらに伝わった、胎動。

 

 

 びっくりして、感動した。

 

 

 

 

 

 命がそこに、確かにあった。

 

 

 

 

 

 授かった命。そして。

 

 

 

 

 

 ………里見。

 

 

 

 

 

 消えた命。

 

 

 

 

 

 命はどこから来て、どこに消えていくんだろうか。

 

 

 

 

 

 なんて、考えても分からないことを考えても、仕方ないのに。

 

 

 僕はまだ、また、こうして里見を思い出して、涙を浮かべるんだ。

 

 

 

 

 

「外で飲むか」

「え?」

「コーヒー。外で空見ながら飲も。もう寒くないし、たまにはいいだろ」

「………うん」

 

 

 

 

 

 七星の背中にくっついたままの僕を心配してくれたんだろう。七星がそう言った。

 

 

 僕はそんな七星がやっぱり………。

 

 

 

 

 

「すき」

 

 

 

 

 

 小さな僕の呟きに、何かが返された。

 

 

 聞き取れなくて、振動だけが耳に響いた。

 

 

 

 

 

 多分、俺も、かな。

 

 

 

 

 

 許されない恋なんてないよ。

 

 

 

 

 

 ふと、くっついていた七星の背中で、僕は唐突にそう思った。

 

 

 

 

 

 許されない好きという想いは、どこにも存在しないんだって。許されないなら、最初から存在なんてしないって。

 

 

 里見。僕はそう思いたいよ。

 

 

 すべては許されている。



 最初から許されている。許されていると思うより先に、好きと思ったその時点から、許そうと努力するよりも先に、もう。

 




 

 僕はそう思いたい。

 

 

 そう思えば。そうすれば。

 

 

 

 

 

 里見、そう思えば、僕たちの悲鳴に引き裂かれた、誰にも許されなかった恋だって、つらく悲しい日々だって。

 

 

 

 

 

 胸の奥が、痛かった。

 

 

 

 

 

 それぞれのマグカップを持って、僕たちは外に出た。

 

 

 並んで手を繋いで、空を見上げた。

 

 

 

 

 

 そこに、空に、夜空に、里見とよく見ていた月が、星が、星座があった。

 

 

 どこまでも続く、里見の場所へも続く広く大きな空に、それは。

 

 




 キレイにキレイに………輝いていた。

 

 

 

 


 おしまい

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