第46話
「親父がそろそろ真澄を紹介しろって」
「………え?」
七星から前のコイビトの話を聞いて愛しさが増した翌朝、僕は自分から強請って抱いてもらった。
だからいつもより遅い日曜日のスタートで、身体に残る余韻にいつもよりぼんやりしていた。
そんなブランチ後の、静かなコーヒータイムに。
「今日夕飯一緒にどうだ?ってラインきてる」
「………え」
七星のお姉さん、美夜さんにはあれから何度か会った。娘の理奈ちゃんにも、美夜さんの旦那さんの
美浜公園で、豆太の散歩をしているときに。
だから挨拶をした。
七星はそのときに健史さんにも理奈ちゃんにも僕を自分のコイビトだと言った。
それに、僕の方がびっくりした。カミングアウトしてるとは聞いていたけど、本当に普通に『俺のコイビト』って言ったから。
でも、びっくりしたのに、身構えたのに、僕は健史さんにも理奈ちゃんにも、ごくごく普通に受け入れてもらえた。
健史さんには、美夜から聞いてるよって。聞いてた以上のイケメンだねって。
だろって答える七星に、恥ずかしすぎて、耐えられなくて、僕は豆太を連れて公園の端まで逃げて、笑われた。
でも、ご両親にはまだ、で。
夕飯って。しかも、今日。
「昨日言った通り、うちはもう俺が『そう』って家族全員知ってるし、理解もしてもらってる」
「………うん」
「親父は単純にいい年した息子にコイビトができたんだからちゃんとしろって、そっちの意味で会わせろって言ってる」
「………そっちって?」
「普通なら俺も、結婚とか考えてもいい年だろ?」
「え?」
「それぐらい真面目に付き合ってるんだろうな?なら会わせろ。会わせられるだろ?会わせられないのか?っていう、親父から俺への圧だよ。圧」
「………」
七星の言っていることが。
分かるんだけど、分からない。
呆然と七星を見る僕に、七星は笑った。
「俺は紹介したいよ。真澄が好きだし、自慢のコイビトだし、これからずっと付き合っていきたいから。でも、真澄は有名人だし、色々あるかも、だから、真澄がイヤならしない」
「………僕は、有名人では、ないよ」
「十分有名人だって」
「………」
七星は穏やかに笑みを浮かべていた。
昨日の話で知った、七星の過去のほんの少し。
だから僕たちは、気持ちがお互いにあると分かりながら、じれったいぐらい始まらなかった。
だから七星は、郵便配達というあまり人と接しない仕事をしていて、まだ少し世間から、社会から距離を置いている。
だから。
『好きであること』から、逃げなかったから、七星は。
「………ごめん」
「………うん」
僕の漏らしたごめんを違う意味で受け取った七星が、じゃあ今日は行かないって連絡するよって、テーブルの上のスマホを手にした。
「違う、七星」
「違う?」
「ごめん。僕は、僕の家族には言えない。七星を紹介できない」
うちの親は。弟も。僕と里見とのことを知っている。
一度家に女の子を連れて行ったことはあるけど、それっきり。
プラスでこの年になるまで結婚もしていない。
今じゃ結婚の話題を振られるのがイヤで寄り付きもしない。ほぼ音信不通。
だから、分かっていると思う。薄々は。
でも、はっきりは、させていない。グレー。
もしかしてという疑惑程度。
僕も敢えてそうしている。そのままにしている。否定も肯定も、僕は一度もしていない。
七星のようにはできない。していない。僕は。
こわくて。
………でも。
「七星の家、行きたい。挨拶したい」
認めてもらえるなら、認めてもらいたい。
僕が好きになった七星のご両親に。七星を好きって、この気持ちを。
「………うん。ありがと」
テーブルの上。
七星の大きな手が、僕の手に、乗った。
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