第45話
相手はコーチをやっていたサッカーチームに来ている子のお兄さんだったと、七星は言った。
いつものように抱かれて、心と身体が満たされて、でも疲れて、少し放心状態で。その時に。
僕よりもずっと逞しい腕が、縋るみたいに僕の身体に絡んだ。
少し年の離れたお兄さんで、時々試合を見に来ていた。
挨拶をするようになり、話すようになり、そして。
初めてきちんと付き合ったと、七星は言った。
恋愛は、自分には縁がないとずっと諦めていた。最初から諦めていれば期待もない。期待がなければ失望もない。
好意の対象が同性。
そこが普通じゃないのだから、普通なんか求めるだけ無駄だと、七星は冷めた目で自分を見ていたらしい。それがストイックなまでのサッカーへの努力となっていたと。
そこに現れた彼に、自分は驚き、救われたと。
だからこそ、認めてもらいたかった。
好きだという気持ちを。理解して受け入れてもらいたかった。
男女間の心と何も変わらないと。
七星は彼を家族に紹介した。彼がコイビトであり、自分は彼を心から大切に思っている。
だから、それを認めてもらいたい。
家族だけじゃない。世の中にも。
そういう活動をしている人たちが居る。自分もそれに参加したい。もっと認められていいはずだ。同じ気持ちなのに悪いことのように扱われることの方が間違っている。
真面目過ぎるぐらい真面目な七星らしいその行動は、次第に彼を追い詰めていった。
反対された。七星の家族に。特にお父さんに。
彼の家にも何度も行ったけど、同じように、それ以上に反対された。
それでも、話せばきっと分かってくれる。
七星は通った。
その頃にはすでにひとり暮らしをしていたから、実家に、彼の家に。
頭を下げた。認めてください。自分たちを。好きだという気持ちを。
通って、通って。
七星の家族からは認められて。
彼の家族からは。
『お前が居ると息子がおかしくなる。二度と来るな』
彼は追い詰められて。心が壊れて。
………入院した。
サッカーの教え子である彼の弟は最初味方をしてくれていた。
でも、どんどん追い詰められていく彼を、お兄さんを側で見て、七星にもうやめてくれと、来ないでくれ、諦めてくれと言った。チームをやめていった。
七星と彼のことはチーム内の保護者の間でも噂になった。七星が弟のレギュラーを盾に関係を迫った。弟にも手を出そうとした。七星がサッカーをやっているのは、相手を漁るためだ。
そんな嘘の噂が。
七星はコーチを。サッカーをやめた。理解を求めることをやめた。
彼は今も、病院に通っているらしい。
「おかしいだろ。異性間で許されることが、同性では許されないって。じゃあこの気持ちは何だよ。好きって気持ちはどうしてある?なくならない?………好きなんだよ。それだけなんだ」
僕の首筋に顔を埋めて声を震わせる七星が。
………愛しかった。
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