第44話
七星はびっくりするぐらいきちんとしていた。
真面目………過ぎるんだろうな。
付き合いが長くなってきたら、仕事帰りにもっとうちに来るようになるんじゃないか、帰らなくなるんじゃないかって、どこかで思っていた。
でも、七星は毎週土曜日に泊まるだけだった。
平日の仕事帰りにおかずを取りに来ることもなくなった。俺は誘惑に弱いから、絶対家の中まで行って絶対そのままってなるから。そう言って。
もうコイビトなんだからいいのに。
違う。コイビトだからきちんとしたいんだ。
そんな七星に、真面目過ぎ、頑固過ぎって何度も思った。言った。
自分でもそう思う。面倒な性格なんだって笑う七星が好きって、思った。
時々豆太もうちに来た。庭やうちで遊ぶ豆太がかわいすぎて、くつろぐ七星に乗ったり、一緒に寝たりしているところが本当にかわいすぎて、僕のスマホはすぐに豆太と七星でいっぱいになった。
なかなか仕事が捗らないときは、その写真や動画を見て、豆太を描いて、気分転換をした。
庭のミモザの木の枝には、七星が熱望した鳥箱も置いた。
ネットで見たら巣作りは春から初夏って書いてあって、これじゃあしばらくは飾りだねって笑った。
春が楽しみだねって、笑った。
お互いのことも少しずつ話した。
僕は、今までのことを話すとほとんど里見に繋がるから、必然的に里見のことも全部。
七星は、ずっとサッカーをやっていたこと、数年間ではあるけど、アマチュアではあったけど、その中でも強い社会人チームに所属していたこと、サッカーコーチのライセンスをとって子どもたちに教えていたことを教えてくれた。
七星は今、サッカーにはまったく触れない。
本当にやってたの?っていうぐらい、まったく。徹底して。
それがすごく、不思議だった。
仕事もそう。郵便配達員。七星は正社員ではなく契約社員だと言った。いつまで続けるか分からない。いつまでも続けられる仕事じゃない、と。
真面目過ぎるぐらい真面目なのに、同時にどこか自分を諦めているようなところがあった。わざと線を引いているような。
そしてそれを自分で分かってやっている。良くないと思いながらやっている。
僕にはそう見えた。
何が七星をそうさせたのか。
何が七星にそうさせているのか。
いつものように泊まりに来た七星と夕飯を食べて、お風呂に入って、お酒を飲んだ。
七星はビールを、僕は飲み出したらハマった赤ワインを。
飲んで、少し酔って、いつものように寝室に、ベッドに行った。
ベッドでさらに僕は酔った。七星に。七星の身体に。
朝晩と昼の寒暖差が激しい季節になっていた。
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